テスラの廉価版が「期待外れ」の理由 モデルY/モデル3「スタンダード」に足りないもの
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アメリカの電気自動車(EV)大手テスラは、アメリカでの自動車購入者向け税額控除の終了を受け、主力2車種の廉価版を発表した。だが新機能は乏しく、既存モデルから装備を削った「スタンダード」仕様の投入に、市場の受け止めは冷ややかだ。発表直後は株価が約4%下落した。
◆思ったほど安くない――市場の反応はネガティブ
投入されたのは「モデルYスタンダード」と「モデル3スタンダード」。アメリカでの車両本体価格(送料・販売手数料を除く)は、モデルYスタンダードが3万9990ドル(約607万円)、モデル3スタンダードが3万6990ドル(約561万円)で、上位グレード比の値下げ幅はモデルYで約5000ドル、モデル3で約5500ドルにとどまる。9月末で7500ドルのEV税額控除が失効した直後の発表であり、実質負担が軽くなったとは言い難い。
発表を巡る失望感は強く、投資家はより強い価格競争力を期待していたとの見方が広がった。株価下落もその反応を映した格好だ。
◆巻き返しは難題 新しさに乏しい仕様
新「スタンダード」は、航続距離の短縮やスピーカー/タッチスクリーン数の削減、シート素材の簡素化、一部装備の見直し、カラーバリエーション縮小など、コストを抑える方向の変更が目立つ。値下げ幅も税控除喪失分に届かず、「3万ドル」よりも実態は「4万ドルに近い」との指摘もある。
ブルームバーグの論説は、今回の投入が製造の跳躍ではなく既存ラインの稼働率引き上げに軸足を置いた「守り」の策だと分析。「追加ではなく削減」の方向性は、かつてのイノベーション主導の姿勢と対照的だと辛口に評している。
なお第3四半期は過去最高の売上高だったが、CNNは税額控除の期限を見越した「駆け込み需要」の影響だと指摘する。年初から第2四半期には販売の落ち込みも報告されていた。BBCは、手頃な新車投入の遅れが勢いを削いだ要因だとみており、税額控除の終了が事業に打撃を与えるとの懸念が社内にあると伝える。さらにCNNは、マスク氏の政治的立場への反発が一部の消費者離れを招いた可能性にも言及している。
◆競争激化 マスク氏の関心はEVからAIへ
イーロン・マスクCEOはロボットタクシーや人型ロボットに注力する方針を示してきたが、会社の収益は依然として自動車事業への依存が大きい。
一方でEV市場の競争は激化している。中国メーカーの台頭は著しく、BYDはEVの年間販売台数でテスラを上回る見込みだ。ヒュンダイは従来モデルより最大9800ドル(約150万円)安いEVを発表するなど、中国勢をはじめ各社が廉価EVを相次ぎ投入しており、テスラは価格での防戦を強いられている。
「スタンダード」各モデルの発売は11月以降の予定。消費者がどう評価するかが焦点だ。




