スイス発・天然素材100%の代替肉、欧州で販売広がる

©️ Planted Foods AG

 アメリカでは、植物性原料から作られた「代替肉」ブームは失速したが、ヨーロッパでは代替肉の消費は増え続けている。環境へのメリットと健康志向、新しい食品への関心から、消費者の約4分の1が過去1年間に代替肉を購入したという。西ヨーロッパと東ヨーロッパにおける代替肉の売上高は2027年までそれぞれ年平均7%、5%成長すると予測されている。

 ヨーロッパの代替肉製造業者たちは原材料、栄養価、フレーバーの点でさまざまな工夫を凝らしている。2019年夏に設立されたスイスの「プランテッド・フーズ(以下、プランテッド)」も健闘している。

 100%天然素材を使った同社の代替肉のラインナップは現在、ステーキ肉やチキンフィレ、グリル用ソーセージなどの17種類とチベット風の餃子「モモ」の計18製品。国内の小売店で気軽に購入でき、多くのレストランでもビーガン料理に使われ、トップシェフたちからも好評を得ているという。その人気は国境を越え、イギリスからイタリアまで販売が広がっている。

◆「押し出し成形+発酵」でおいしい“肉”に変化
 プランテッドの本社および工場は、チューリッヒ中央駅から電車で約30分の場所にある。一般の人にも製品について詳しく知ってもらおうと、グループでの試食つきの工場見学も受け付けている。

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 同社の基本的な原材料は、黄えんどう豆や大豆、ひまわりの種(油製造業から出たかす。通常は動物の餌や肥料などになる)、小麦粉(小麦粉未使用の製品もあり)、菜種油(一部、ひまわり油やごま油を使用)、水、ビタミンB12(植物性原材料には含有量が少ないため添加)、マリネ液だ。合成香料、合成着色料、合成保存料などの食品添加物は一切加えていない。ほとんどは西ヨーロッパ(可能な限りスイス)から調達している。

 作り方はシンプルだ。豆の粉に水と菜種油を混ぜ、こねて加熱する。生地はシリアルやパスタの成形にも使われる押し出し成形技術で原形を作る。この段階で、球状の植物性たんぱく質は動物の筋繊維のような細長い形状になる。原形にビタミンB12などの微量栄養素を加えて発酵させる。発酵が終わったら製品の種類別にカットする。製品に応じてマリネ液で風味づけした後、包装する。

©️ Planted Foods AG

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 代替肉の色は、ひまわりの種、ビーツ(赤紫色の根菜)の濃縮物、パプリカ、トマトペーストなどを混ぜて変える。マリネ液の材料は家庭のキッチンにあるようなものばかりで、砂糖、塩、酢、醤油、味噌、スパイス類、ハーブ類、オイル、レモン果汁など、やはり天然成分のみだ(日本食ブームで醤油や味噌は普及している)。

 なお、品質が低下する恐れがあるため、プランテッド製品の冷凍は推奨していない。

◆実際に食べたら、本当の肉のような食感
 筆者も先日、プランテッドを初めて購入し、食べてみた。トルコ発祥のファストフード、ケバブ(肉の塊の外側を焼いて削ぎ落とし、野菜と一緒にピタパンやトルティーヤに包んだスタイルが一般的)のフレーバーを選んだ。本当に削ぎ落としたかのような不揃いな形と茶色い色も本物のようで食欲をそそられた。原材料は、水、えんどう豆たんぱく質(26%)、菜種油、えんどう豆繊維、スパイス、塩、イースト、ビタミンB12と表記されている。

 準備はとても簡単だ。フライパンに植物油を熱し、カリカリになるまで3~5分炒め、最後に小さじ1杯の水を加えてふっくらさせたら出来上がり。トルティーヤに包んで食べようかと思ったが、代替肉の味が際立つようにサラダにした。

著者撮影

 歯ごたえや舌触りは、口に入れてしばらくは本当の肉のようだった。その後は、ほんのり豆の香りがする生地の食感になった。スパイスがしっかりきいていて辛みが強すぎる気もしたが、ピタパンやトルティーヤに包んで食べたらちょうどよい辛さかもしれない。全体としては「とても上手に作ってある」と感じた。

 同社サイトには「ものすごくおいしい」「調理が簡単でいい」「食品添加物ゼロで安心して食べられる」とケバブやほかのフレーバーにも高評価の声がたくさん寄せられている。

◆環境に貢献し、食肉になる動物の命も救う
 プランテッドのアイデアは、共同設立者のパスカル・ビエリ氏がアメリカで数年働いていた時にさまざまな代替肉を知ったことから生まれた。それらには食品添加物がたくさん含まれていたという。

 同社は世界の食料問題も見据え、代替肉の環境負荷が肉類よりも少ない点、そして動物福祉(アニマルウェルフェア)の点も重視し、肉類(動物性たんぱく質)の摂取を代替肉(植物性たんぱく質)に切り替えることを促進したいという。

©️ Planted Foods AG

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 同社の最新のサステナビリティ報告書によると、設立時から2024年までに、食肉産業に比べ5万5千トンの二酸化炭素(CO2)を削減し、50億リットルの水を節約できた。

 先に挙げたケバブ代替肉の製造では、肉の場合よりもカーボンフットプリント(原材料調達からリサイクルまで、製品やサービス全体で排出される温室効果ガスの量。CO2排出量に換算)が87%少なく、ウォーターフットプリント(食料や衣類などの生産全体で使われる水の量)は85%も少ないという。

 動物福祉の点では、同社製品により、牛700頭以上、豚2万8千頭以上、鶏約350万羽が食肉になるのを防げたと算出された。

◆製造拠点の拡大へ
 同社は今年、さらに新たな一歩を踏み出す。輸出先の75%を占めるドイツに工場を開設するのだ。南ドイツに建てるグリーンテクノロジーを駆使した工場では、稼働後、中期的に1日あたり20トン以上の代替肉の生産を予定している。

 スイスのスーパーにはかなり前から代替肉はあったが、プランテッド製品が商品棚に加わったこともあり、数年前から充実度が高まった。代替肉の地位は、スイスを含めてヨーロッパ全体で確固たるものになっていきそうだ。

©️ Planted Foods AG

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Text by 岩澤 里美