イギリス初の合法大麻工場が稼働 秘密の場所で元軍人ら厳重警備
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イギリスでは2018年に医療用大麻が合法化された。慢性的な痛みなどを改善するため、医師や患者からの需要は急増しているが、大麻の質と供給には懸念が示されてきたという。大麻を医療用に供給する目的で、国の認可を受けた企業が国内初の栽培を始めており、大麻使用への認識が変わる第一歩と期待されている。
◆医療用が不足 国産大麻工場が本格稼働
デイリー・メール紙によれば、イギリスで医療用大麻産業は近年急激な成長を遂げており、昨年の推定市場規模は23億ポンド(約4400億円)に上るという。しかし、認可を受けた供給業者が不足しており、毎年数十億ポンド相当の違法な医療用大麻が、利用者によって調達されていると推定される。
イギリスでは医療用大麻の栽培ライセンスを取得するには、厳しい規則を遵守する必要があり、長い時間とコストもかかる。合法大麻工場として国内初の認可を受けたダルゲディ社のジェームス・リーブスリー最高経営責任者(CEO)は、ライセンス取得に4年半かかったと言う(同)。
今年になって、ダルゲディの施設から、初めて医療用大麻の花が国内の医療機関向けに出荷された。これにより大麻の栽培、製造、供給を1ヶ所で行う、国内初で唯一の施設となった。
◆警備は厳戒態勢 製造システムも完璧
ダルゲディの工場はイングランド中部地方にあり、1000万ポンド(約19億円)を費やして建設された。場所の詳細は極秘とされている。製造する製品の性質上、工場は150台以上の監視カメラと元軍人のチームが警備。施設の周囲は鋭利な刃が取りつけられた鉄線で囲まれ、窓は防弾ガラスで固められている。工場に入るには、汚染を最小限に抑える服装が要求される。(エクスプレス紙)
質の高い医療用大麻は、特別な条件と方法で栽培される。温度の管理はもちろん、エネルギー効率の高いLED照明、栄養を供給する水耕栽培システム、光合成を促すために最適な二酸化炭素(CO2)濃度が採用され、成長と品質を最大化している。(同)
収穫されるまでに1株あたり最長5ヶ月を要するという。手作業で刈り込んだ後、乾燥させ、最終製品である花の部分が切り離される。最高品質の製品には「少しずつゆっくり」なアプローチがベストだと栽培責任者は説明している(デイリー・メール紙)。
エクスプレス紙によれば、ダルゲディの施設では、毎月約4000人分の処方箋を満たすだけの大麻の花が栽培できる計算だという。
◆普及に課題 薬物特有のイメージ問題も
BBCによれば、現在医療用大麻の同国の使用者は約5万人だが、国民健康保険にあたる国民健康サービス(NHS)で処方されている人はほとんどいないという。その理由は、すべての医療用大麻製品が国の認可を受けているわけではないからだ。未承認の製品の処方に多くの医師が懸念を抱いているうえに、手続きが煩雑で患者にとってのコストも高いという。
それだけに、合法な医療用大麻の登場により、利用のハードルが下がることが期待される。リーブスリー氏は、大麻にはさまざまな症状への医療効果があるという認識が広まり、処方する医師が増えることを願っているとエクスプレス紙に話している。
神経障害に苦しみ、実際に医療用大麻を使用する女性は、大麻がなければ苦痛でたまらないとBBCに話す。しかし、もし長期的な悪影響が判明すれば、大麻の恩恵がかき消されてしまうのではないかと危惧している。人前で使用すればドラッグ常習者と思われるため、つい隠れてしまうとも話しており、従来の大麻に対するネガティブなイメージの払拭も課題のようだ。