限定「ドバイチョコ」爆売れの裏で…「重金属含有を隠した」と批判受けるリンツ

「ドバイチョコレート」を買うためリンツの店の外に並ぶ人々(ドイツ・アーヘン)|Daniel Niemann / AP Photo

 チョコレートショップやカフェを日本を含め世界中で展開している「Lindt(リンツ)」は、スイス発のチョコレートブランド。地元スイスではスーパーやコンビニでも買える身近な存在で、数あるスイスのチョコレートメーカーや高級製菓・チョコレート店のなかで不動の人気を誇る。

 リンツ&シュプルングリーはスイス、ヨーロッパ、アメリカでリンツブランドを製造し、世界に販売網を広げている。売り上げは好調で、2024年上半期の本業の売上高は21.6 億スイスフラン(約3800億円)に達した。成長の理由は、カカオ豆の国際価格の急騰(天候不順による不作で供給が不足)に伴い商品を値上げして単価を高くしたことと、販売量も増加したことだという。

 2020年9月、スイスの本社にオープンしたチョコレートの博物館「リンツ・ホーム・オブ・チョコレート」も人気だ。今年1月の時点で、累計訪問者は75万人を越えた。国内からはもとより、国外からの観光客も多数訪れている。

◆「ドバイチョコレート」400枚をスイスで限定販売
 11月に入り、スイスではクリスマス向けのお菓子が店頭に並び、リンツ商品も加わって華やかな気分を醸し出している。そんななか、リンツの手作りの限定商品が大きな話題になった。日本でも一部で評判になっているドバイ発祥の「ドバイチョコレート」だ。

 ドバイチョコレートは、ピスタチオペーストと乾麺(原料はトウモロコシの粉)がたっぷり詰まったチョコレート。ドバイのチョコレート工房「フィックス・デザート・ショコラティエ」を立ち上げた女性が考案した。工房のドバイチョコレートには高級なベルギーチョコレートが使われているという。

 リンツのドバイチョコレートはそのレシピを真似てスイスの本社で手作りし、11月上旬から1000枚限定でドイツのデュッセルドルフやベルリンなどで販売された。長い列を作って買い求める人たちの様子をドイツの公営放送も報じた

(こちらの記事では、同社のチョコレート職人がドバイチョコレートを作っている映像が見ることができる)

 この大反響を受け、スイスでも16日にドバイチョコレート(150グラム、14.95フラン)が発売された。「リンツ・ホーム・オブ・チョコレート」にて9時半から400枚限定発売で、夜中の1時半から来ていた17歳の男性もいたという(高級日刊紙NZZ)。

 7時には、気温約0度のなかで約30人が並び始め、列は長くなる一方。2時間強で完売となり、購入できなかった約100人は、次回のドバイチョコレート発売時の割引券とリンツの通常のピスタチオチョコレートをもらって帰ったという。また、早くも同日午後には、スイスのオークションサイトのリカルドで「即売価格550フラン」という値で転売されていた。(20ミヌーテン

© Chocoladefabriken Lindt & Sprüngli AG

◆ドイツでは批判を浴びる
 リンツ&シュプルングリーは、このフィーバーを喜んでいるに違いない。しかし、良いことばかりではない。先述のフィックス・デザート・ショコラティエのドバイチョコレートを直輸入し、ベルリンで販売しているドイツの輸入業者が、リンツ&シュプルングリーに対して法的措置を講じる考えであることを明らかにした(T-Online)。

 この輸入業者によると、ドバイには、ドバイチョコレートを製造する正規のメーカーは、フィックス・デザート・ショコラティエを含めて3社しかないという。リンツもほかのメーカーもレシピを真似て作り「ドバイ」と書いて宣伝したら、ドバイチョコレートのオリジナルレシピを使っていたり、メイド・イン・ドバイのチョコレートだろうと消費者が誤解するかもしれないと懸念している。

◆アメリカで訴えられたリンツ
 さらには、アメリカからのニュースも飛び込んできた。同社の別の商品に関して「ニューヨークの裁判所がリンツ&シュプルングリーに対する集団訴訟を承認した」というのだ。

 発端は、2022年末に、アメリカの消費者機関コンシューマー・レポート(CR)が発表した製品テストだ。さまざまなブランドのダークチョコレート28種をテストした結果、1日に約28グラムを食べると、いずれ健康上の問題を引き起こす可能性のある量の重金属(鉛やカドミウム)が含まれていることがわかった。たとえば、成人が頻繁に鉛を摂取した場合は、神経系の問題、高血圧、免疫系の抑制、腎臓の損傷、生殖の問題が生じるかもしれなという。

 このテストには、リンツのプレミアムシリーズ・エクセレンスの「ダークチョコレート70%ココア」「ダークチョコレート85%ココア」の2種類が挙がっている。「70%ココア」はカドミウム含有量が多く、カカオの風味がより強い「85%ココア」は鉛の含有量が多かった。スイスの日刊紙ターゲス・アンツァイガーによると、カリフォルニア州では、規定の制限値以上のカドミウムと鉛を含むダークチョコレートは申告する義務がある。リンツ&シュプルングリーの広報責任者、ラヘル・ツィクラー氏は「当社のダークチョコレートは基準値を下回っているため、申告の対象にはなりません」と話しているという。

 各種ミネラルが豊富なダークチョコレートは砂糖や牛乳がほとんど含まれていないため、ミルクチョコレートと比べて健康的であると考えられている。しかし、カカオの木は土壌から重金属を吸収している。ちなみに、日本の米にもカドミウムは含まれている。

 このCRのテスト結果が公表されてから、該当のメーカーに対する集団訴訟が相次いだ。アメリカのリンツ&シュプルングリーは、2種類のダークチョコレートに重金属が含まれている事実を隠したとの訴えを回避しようとしていた。この件に関する決定は保留中とのことだ。(ターゲス・アンツァイガー)

 チョコレートを愛してやまない人は多い。今回のドバイチョコレートの人気ぶりを見ても明らかなように、リンツのファンはやはり多い。たとえ批判を受けても、リンツ&シュプルングリーへのファンの信頼は簡単には揺るがないだろう。チョコレート1枚に熱狂的になれることは平和な証拠だと、筆者は今回のフィーバーを少し冷ややかな目で見ている。

Text by 岩澤 里美