世界に広がるプレゼン方法「ぺちゃくちゃ」とは? 20スライドを20秒ずつ

スペインでのぺちゃくちゃイベント|Medialab Matadero / flickr

 プレゼンテーション能力が必須の欧州において、ここ数年よく聞かれるようになったのが「pecha kucha(ぺちゃくちゃ)」と呼ばれるプレゼンテーション形式だ。その語源はおしゃべりの様子を表す日本語のオノマトペだが、提案したのは日本で建築事務所を開く欧州生まれの建築家2人である。ぺちゃくちゃとはいったいどういうプレゼン方法なのだろうか。

◆小学校から磨かれるプレゼン能力
 欧米の教育で重視されるものの一つがプレゼンテーション能力だ。筆者の知るイギリスの学校でも、10年以上前にはすでにY4(日本の小学3年)でプレゼンテーションソフト「パワーポイント」を用いるプレゼン準備を学んでいた。

 パワーポイントが種々のプレゼンになくてはならない手段となって久しいが、その一方で、パワーポイントは使い方によって弊害にもなり得る。ル・モンド紙は、その原因を「カラフルな円グラフが並ぶ過剰な量のスライドのスクロールがもたらす催眠効果」や、過剰な文字数の「箇条書きの多用」だとする。これらに毒されると、最も肝心なメッセージが、聴衆には届かないという事態になるからだ。

 スライド使用が生む弊害を、コンサルタントのアレクセイ・カプテレフ氏は2007年「パワーポイントによる死(Death by PowerPoint)と名付けた。

◆「パワーポイントによる死」脱却法
 こういった流れで注目されるようになったのが、「ぺちゃくちゃ」だ。ルールは非常にシンプルで、20枚のスライドを1枚20秒かけてプレゼンするというものだ。考案者であるアストリッド・クライン氏とマーク・ダイサム氏は、複数の講演者にこの方式でプレゼンさせるイベント、「PechaKucha Night(ぺちゃくちゃないと)」を2003年に初開催した。ぺちゃくちゃないとはその後、「デザイナーやクリエイターらが互いに創造性を共有するプレゼンテーションの場として世界各国に広がり、現在では約1,200の都市で開催される世界的なイベントへと成長している」(クライン・ダイサム・アーキテクツサイト)という。

◆高等教育機関や企業などでも採用
 さらに、ぺちゃくちゃはデザイナーの世界にとどまることなく、ビジネスや教育の世界にも広まっている。実際、ネットを検索すれば、「ぺちゃくちゃプレゼンをいかに成功させるか」という記事が多数ヒットする。

 フランスでは高等教育機関において、学生のプレゼンにぺちゃくちゃ方式が指定されることが増えた印象だ。たとえば、エクス・マルセイユのアカデミーも「ぺちゃくちゃ、あるいはパワーポイントによる死」というタイトルで、生徒にぺちゃくちゃを導入する利点とその方法をまとめている(ピエール・マンデス・フランス高校サイト)。

 また、医療系スタートアップ企業を創設したベンジャミン・コーエン氏は、起業家にとっても「(ぺちゃくちゃは)起業アイデアをまとめ、ダイナミックにプレゼンテーションするのに最適な方法」だと述べる(レ・ゼコー紙)。

◆シンプルなプレゼンは、シンプルでない準備から
 上述の通り、ぺちゃくちゃは20枚のスライドを20秒ごとに自動的に切り替える、という実にシンプルなプレゼン法だ。つまり、プレゼン時間はたったの6分40秒ということになる。

 だが、逆に言えば、伝えたい内容を表すのにふさわしいビジュアルを20枚に絞り、説明は1枚につき20秒でまとめなければならないことを意味し、そう簡単なものではない。

 デジタル戦略とマーケティングを専門とするCYGNUM社が説くように、ぺちゃくちゃプレゼンを成功させるためには、「プレゼンの目的の明確化」や「重要情報の選択」に加え、「情報の呈示順序」や「スライドの視覚効果」への熟考が必須だ。つまり、シンプルなようで、相当な準備を要するのがぺちゃくちゃなのだ。

 とはいえ、アドリブは苦手だが、地道な準備はいとわないという人にとっては、ぺちゃくちゃはプレゼン成功への大いなる近道となることだろう。

 余談だが、フランス語ではPecha kuchaは「ぺしゃくしゃ」と発音される。そのため、最初に「日本語ですよね」と相槌を求められた時は、筆者も首をひねったものだ。

Text by 冠ゆき