「退職代行サービス」流行る日本は変? 海外メディア、日本独自の労働文化を紹介

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 退職を希望する従業員本人に代わり、代理業者が退職手続きを行う「退職代行サービス」が話題だ。こうしたサービスは日本の労働文化を象徴する興味深い事例だとして、海外のメディアにも取り上げられている。転職に後ろめたさを感じる日本の価値観や、辞めづらいブラックな職場環境などが退職代行への需要を高めていると海外紙はみる。

◆「退職は不道徳」との倫理観
 退職代行サービスが流行する背景に、日本人労働者の心理がある。英タイムズ紙は、「日本人にとって、仕事を辞めることは不道徳なことである」と指摘する。日本人は忠誠心を重んじ、対立を避ける傾向が強い。このため、退職を申し出ること自体が大きなストレスとなり、上司に面と向かって退職を申し出づらいとの指摘だ。

 場合によっては、上司からの圧力も発生する。同紙は、退職願を3回破られ、土下座しても辞めさせてもらえなかったとする例を紹介している。従業員を辞めさせないよう嫌がらせに出るなど、時として日本での退職は困難を極める。

 極端な事例が「ブラック企業」だ。米CNNは、ブラック企業では従業員が過酷な労働環境に置かれ、退職を申し出ることが非常に困難だと報じている。そうでなくとも「日本には長時間労働、上司からの高圧的な指示、そして会社への従順さが求められる文化がある」と記事は述べる。

◆失業率が低いゆえの不幸
 企業側が退職を阻止するのはなぜか。背景にあるのは、人手不足だ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「日本は2.7%という(低い)失業率と急速に高齢化する人口を抱えており、労働力の逼迫(ひっぱく)に直面している」と指摘する。CNNも、「日本の労働市場は急速に高齢化し、出生率の低下により若年層の労働力が不足している」との指摘だ。このような事情により、企業側としては何としてでも従業員を辞めさせたくない状況だ。

 もっとも、人手不足の現場であろうとも、退職をすることは労働者の権利だ。だが、日本では労働者が雇い主に特に高い忠誠心を示すことが求められる。日頃から自分個人の意見を述べたり、あまつさえ自らの都合で退職の意思を申し出たりといったことは難しい。

◆日本人は意見を述べるよう教育されていない
 ある退職代行サービスの共同創業者は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に、「日本人は、議論や意見を表明するようには教育されていない」と述べている。記事は、日本人にとっては退職を申し出ること自体が大きなストレスとなっており、退職代行サービスの利用が増えている事情があるとしている。

 法と現場の慣行の乖離(かいり)も課題だ。タイムズ紙は、「日本の労働法は明確であり、合意された通知期間を守れば、誰もがどんな仕事でも辞めることができる」との規定を取り上げている。だが、円滑に辞められるかは別問題だ。明治大学の加藤久和教授(経済学)はCNNに対し、「日本には労働者を保護するための労働(基準)法がありますが、職場の雰囲気がそれ(退職)を切り出しにくくしている」と指摘する。

 労働者としては表立って上司と対立したくないが、いつまでもブラックな労働環境に身を置いてもいられない。退職代行サービスは、日本にありがちなこうしたジレンマを象徴する存在として、海外の興味を引いているようだ。

Text by 青葉やまと