EV戦略見直す欧州メーカー、なぜ苦戦しているのか?
欧州の自動車メーカーが世界の電気自動車(EV)市場で苦戦している。ステランティス、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツなどの主要ブランドが競合他社にシェアを奪われており、各社は戦略の見直しを迫られている。
◆市場シェアを落とす各社
ユーロ・ニュースによると、7月のEVの販売台数は世界全体で85万3000台となり、前年同月比でわずか6%の増加とにとどまった。需要が伸び悩むなか、EVに注力する欧州の自動車メーカーは市場シェアを大きく失っている。世界のEV市場におけるステランティスのシェアは、2023年第2四半期の3.6%から、2024年7月には2.7%に減少した。フォルクスワーゲン・グループも、同期間に7.5%から6.6%にシェアを落としている。メルセデスベンツは、2023年の2.5%から、2024年には1.9%に縮小した。
欧州各社のEVシフトに暗雲が立ちこめる。米ブルームバーグによると、欧州における7月のEVの販売台数は10%以上減少し、特にドイツ市場では37%の大幅な減少が見られた。フォルクスワーゲンは、投資計画と市場の現実との間にミスマッチが生じたと認識し、計画の見直しを進めている。
同様に、ボルボも9月、2030年までにBEVのみを販売するとしていた計画を撤回した。米CNBCによると、ボルボのジム・ローワン最高経営責任者(CEO)は、移り変わる市場の条件に対応するために、「現実的かつ柔軟」である必要があると述べている。
◆総コストの高さがネックに
不振の原因は、総合的な所有コストの高さにある。EVはガソリン車に比べて維持費用が安いとされるが、初期費用が非常に高い。ブルームバーグは、一例としてEVのフィアット500は、ガソリン版の2倍の価格になっていると指摘する。
大衆向けの安価なモデルが少ないことも問題だ。高級モデルのEVは存在するが、一般消費者が手に入れやすい価格帯のEVが十分にラインナップされていない。ポルシェ・タイカンやBMW i7など高級車は存在するが、これらは一部の高所得者層向けだ。フォルクスワーゲンは低価格のEVを開発すると発表しているが、高い生産コストが障害となっている。
同じく経済的な課題として、残存価値の減損への懸念も大きい。EVは技術の進化が早く、数年後には現在のモデルが旧式化する可能性が高い。このため、消費者は将来的な価値の減少を懸念し、購入をためらう傾向がある。バンク・オブ・アメリカのアナリストはユーロ・ニュースに対し、販売ブームを加速するには「BEVの価格が下がる必要がある」との認識を示している。
欧州メーカーのEV移行が遅れるなか、BYDなどの中国の自動車メーカーは競争力のある価格のEVで販売攻勢をかけている。この動きに、欧州連合(EU)欧州委員会は7月、中国政府の補助金が競争を歪めているとして、暫定的に中国製EVに対する追加関税を導入した。
◆販売奨励金の縮小も逆風
欧州各国の政府が、EVの販売奨励金を縮小したことも痛手だ。ドイツでは昨年9月に企業向けの購入補助金が終了し、結果としてEVの販売は急減速した。
このほかEVの販売不振の一因として、ブルームバーグはロシアによるウクライナ侵攻の影響に触れている。侵攻によりエネルギー価格が急騰し、インフレが進行した。消費者の購買力が低下し、EVを含む新車の購入が難しくなった面がある。
もっとも、EV市場の低迷は一時的なものとの見解もある。INGのシニアセクターエコノミスト、リコ・ルマン氏は、CNBCに、「製品ポートフォリオの(EVへの)変更への投資は、次の10年間で市場における長期的なポジションを確保するために、続ける必要がある」と述べている。