EVショックの韓国…ソウル市はフル充電車の地下駐車場利用を禁止へ
8月初めに、韓国のアパートの地下駐車場で、電気自動車(EV)が炎上。100台以上の車を巻き込む大火災に発展し、甚大な被害が出た。この事故をきっかけに、韓国では人々のEVへの不信感が高まっており、信頼回復のため、政府や自動車メーカーが対策に乗り出している。
◆原因はバッテリー? 地下駐車場での大火災
火災が起きたのは、仁川市の集合住宅の地下駐車場で、火元はメルセデス・ベンツのEV、EQEだった。消火に8時間以上を要し、約140台の車両が巻き込まれる大火災となり、23人が煙を吸って病院で治療を受けたという。さらに、1600世帯が1週間にわたり停電と断水の影響を受けた。(ドイチェ・ヴェレ)
その数日後には、今度は忠清南道の駐車場で、韓国の自動車メーカー、キアのEV6が炎上し、鎮火までに90分以上もかかったという。どちらの出火原因も、車両に搭載されたバッテリーにあったとみられている。(同)
韓国の消防庁によれば、2023年に発生したEV関連の火災は72件で、2021年の24件から増加している。過去3年間に報告された130件のうち、68台が作動中、36台が駐車中、26台が充電中に出火している。(同)
◆市民はショック… EV不信広がる
自動車・交通デザイン学者のクォン・ヨンジュ氏は、仁川市の火災のような大規模事故が起きたのは初めてだと述べる。これまでは数台燃えたとしても、人々はある程度受け入れてきたが、100台以上に損害を与えたとなると衝撃は大きく、本当にEVに乗り続けるべきかと考えるようになったとする。(シンガポールのニュース局CNA)
事故の影響は広がっており、消費者はEV購入を控え始めた。中古車販売プラットフォームのKカーのデータでは、EQEの事故後の1週間で、EVの出品台数は前週比で184%急増しており、EVを手放したいという人も増えている。さらに、一部の病院や商業施設では駐車場へのEVの乗り入れを禁止しており、EVオーナーを困らせているという。(コリア・タイムズ)
◆原因ははっきりせず 信頼回復に求められるものは?
人々がEVへの見方を変えるなか、自動車メーカーは評判回復に必死だ。ドイチェ・ヴェレによれば、無料点検の実施や、価格を引き下げることで、「EV恐怖症」を和らげようと試みるメーカーもあるという。
韓国政府は、自動車メーカーにバッテリー供給元の開示を義務付けることを決定した。10月からは、自動車メーカーは車載バッテリーの安全性について、政府の認可を受けることも義務付けられる。(コリア・タイムズ)
ソウル市をはじめとするいくつかの地方自治体も対策に乗り出した。早ければ9月にも、バッテリー残量が90%を超えたEVは住宅地下駐車場に入れないようにする措置を取る。充電量が減るにつれて、過熱のリスクも低下するからだという。しかし、ほとんどのEVには安全性を確保するためのバッテリー管理システムが搭載されているとして、EVメーカーはこの措置に疑問を呈している。(同)
メーカーの反発に対し専門家たちは、充電制限は正しい方向への一歩だと主張。度重なるEV火災の原因は今のところはっきりしておらず、市民の不安を和らげるためにも、原因が解明されるまでは厳しい措置が妥当だとしている。実際に欧州のいくつかの都市では、同様の対策が行われているということだ。(同)
檀国大学校のパク・ジョンウォン教授は、自動車は韓国経済の重要な一部であり、バッテリーによる火災のニュースは、メーカーや輸出業者に影響を与えると指摘。メーカーはより安全性確保の努力をし、政府もより強いルールを作るべきだとしている。(ドイチェ・ヴェレ)