フィンランド発、レンタル終われば「壊して再使用」できる公共施設 学校、病院などに CO2削減
日本では少子化の影響で、毎年約450校の公立小・中・高等学校が廃校になっている。何らかの用途で活用されている校舎は多いものの、全廃校数の26%に当たる約1900校は活用の目処がなく放置されている(2021年5月1日時点)。そういった未使用の公共施設の無駄を生み出さないアイデアがフィンランドで実践されている。
◆建設過剰を見直す
「私たちは恒久的な建物を建て過ぎています。フィンランドの例を挙げると、公共施設のうち、毎日使われているのは3分の1以下です。長期的に見ると、人口減少や転居などで住民が減った地域では住民の数と建築の数のバランスが合わなくなります」。そう話すのは、フィンランドのパルマコ社のトミ・ヴィッタニエミ事業開発担当マネージャーだ。ヴィッタニエミ氏は、2024年4月に開催されたサーキュラーエコノミーの主要なイベント「世界循環経済フォーラム(WCEF)」のセッション「自然界のためのサーキュラービジネス的解決策」の檀上でスピーチした。
氏は、建設分野ではコンクリートなどのリサイクルしにくい建材が主流であることにも触れ、サステナブルな建材を増やしていくべきだと述べた。世界の二酸化炭素(CO2)排出量を産業分野別に見ると、建設部門の排出量が約37%という報告もあり、建設分野での脱炭素対策も急務の課題だ。
同社は、これらの課題の解決策を見つけた。環境に配慮した建材を使った建物を学校やデイケアセンター、病院などの公共施設として一定期間貸し出し、レンタル期間が終わると撤去するのだ。建材は新たにレンタル施設を建てるときに使ったり、別の用途に使う。建物の寿命は長く、1番古いパルマコの建物は 20 年以上使用されているという。
建材を循環させることを前提とし、CO2排出量削減に貢献する同社のサステナブルなビジネスは高く評価され、今回のWCEFで発表された「ヨーロッパのサーキュラーエコノミー優良企業30社」に選出された。選出は主催者のSitra(フィンランド イノベーション基金)が行った。
◆すでに400軒以上を建設
パルマコ社は、フィンランドやスウェーデンですでに400以上の建物を建てている。建物はモジュール式で、工場で設計・製作をし、建設予定地で組み立てる工法だ。同社の基準モジュールは、標準的な教室のサイズに合わせて55平方メートルとなっているが、顧客のニーズに応じて大きくしたり小さくしたりしてカスタマイズする。建設完了後のスペースの変更希望にも応じている。レンタル期間中のメンテナンスも請け負っている。
国産の木材や、断熱性と耐久性に優れた特製スチールなどの建材は再利用やリサイクルが可能。天候や計画の変更などに左右されず工期が短くて済む(竣工まで3~4ヶ月)ことも、建設時の脱炭素につながる。建物を使っている間も脱炭素ができる。アルミフレームの窓やドアにし、耐久性の高い外壁や屋根のコーティングにして修理を最低限に抑えたり、無駄なスペースのない空間設計を採用することで暖房消費を抑えられ、従来の建物に比べてCO2排出量が最大50%削減できるという。
環境面に加え、コスト面でも低料金になるという利点がある。顧客が支払うのは契約期間の月額賃貸料だ。設計から建設までの費用は含まれている。清掃や除雪などの希望があれば、その料金は加算される。
また建物は機能に優れているだけでなく、デザイン性の高さも大切だ。パルマコでは、外壁に木製パネル、石膏コーティング、タイル、セラミック、スチールなどさまざまな素材を用意しており、色も多様でスタイリッシュだ(施行例はこちら)。屋内も洗練されたデザインで、画像から快適さが伝わってくる。
◆サービス拡大中
パルマコは6月、同社で最大のプロジェクトとなる新しい建設計画を発表した。スウェーデン北部のスケレフテオ市のためにレンタル建築「集合住宅200戸」を建てるという。同市の発展は目覚ましく、この住宅は市の職員たちに賃貸される。
パルマコは4月にはモジュール式の木材建築をドイツで展開している企業を子会社化しており、今後はドイツでもサービスを提供していく。サステナブルな同社のレンタル建築は、ヨーロッパでますます広まっていくことだろう。