米Z世代、なぜブルーカラー職が人気になっているのか?

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 電気技師、配管工、建設作業員など、いわゆるガテン系の技能職が、アメリカのZ世に人気だ。明確なキャリアの方向性もないまま、経済的負担の大きい4年制大学へ行くよりも、即戦力となれる技術を学べる専門学校などへの進学が注目されている。人工知能(AI)がホワイトカラーの仕事を奪うと危惧されるなか、ブルーカラー職が若い世代を引きつけている。

◆無理して大学に行っても… 若者の志向に変化
 インターナショナル・ビジネス・タイムズ紙(IBT)は、大学で学位を取ることがキャリア成功への最良の道である、という伝統的な認識が覆されつつあると述べる。全米学生情報センターのデータでは、2021年春から2022年春にかけて、建設専門課程、機械工・修理工コースといった職業訓練プログラムを提供する専門学校への入学者が、顕著に増えていることが明らかになった。その一方で、4年制大学や2年制大学への入学者は減少傾向だった。

 現在の傾向は、多くの家庭、そして今日の若者の大多数が高等教育への投資対効果に疑問を抱いていることを示していると、アメリカン・インスティテュート・アシスタンス社のジーン・エディ社長は述べる。4年制大学の経済的負担は大きく、ローンを抱えて卒業する場合が多い。それにもかかわらず、明確なキャリアの方向性や実務経験がないため、学生は卒業後の雇用確保に苦労することになる。(IBT)

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)も、多くの若者が4年制大学のコストや価値に対して懐疑的なことが、職業訓練プログラムへの入学者増につながっていると指摘。多額の借金をする必要がなく、デスクワークなしで自分自身のボスになれる高収入の仕事を若者たちが求めているとしている。

◆理想の仕事? ブルーカラーのメリットとは
 シンクタンク「ニューアメリカ」の調査によれば、Z世代の54%が高卒でも安定した高収入の仕事が数多くあると信じているが、ブルーカラー職はまさにそういった仕事の一つと言える。

 米求人情報サイト『ジップリクルーター』によれば、6日時点でアメリカのブルーカラー労働者の平均時給は25.69ドル(約4000円)と非常に高い。また、大学で学位を取るよりも、ブルーカラーの仕事に就く若者のほうが、早くから稼げるようになる。さらに、ブルーカラーの仕事には、一般的に権威ある資格は不要なため、参入が容易という点もポイントだ。

 人工知能のような技術の進歩が、ホワイトカラーの仕事を脅かしているが、ブルーカラー職は、ほとんどの場合テクノロジーで代替できない肉体労働や実地作業を伴うため、長期的安定が見込める。

 また、ブルーカラーの仕事はこれまでになく需要が高いという。ニュースサイト『GVワイヤー』の2023年の報告によれば、熟練した職人の半分以上が55歳以上で、数年以内に退職すると見られている。もし若い世代がその穴を埋めなければ、深刻な人手不足になると指摘されている。

◆固定観念を覆す ガテン系インフルエンサーも人気
 WSJによれば、若者のブルーカラー職への注目増は、ソーシャルメディアの影響もあるという。電気技師、配管工、建設作業員といった技能職のインフルエンサーが、作業の様子やコツなどを投稿。肉体労働の厳しいイメージを覆すかっこいい動画が、若者の関心を集めている。

 ちなみにフォーブス誌によれば、アメリカで年間10万ドル(約1580万円)以上を稼げるブルーカラー職は、発電所作業員、放射線療法士、エレベーターの設置・修理作業員だという。

 IBTは、早く稼げること、安定性、教育費の安さといった要素を兼ね備えたブルーカラー職は、若い世代にとってますます魅力的な選択肢になるだろうと指摘。多様な教育やキャリアの道がより広く受け入れられるようになり、専門職の様相も変わっていくとしている。

Text by 山川 真智子