NYレストラン予約転売、年収1000万円の学生も セレブらサイトで入札

イタリアンレストラン「カーボーン」|chettarin / Shutterstock.com

 ニューヨーク市で予約の取れない人気レストランのテーブル席が、オンラインで売買されている。テーブル席の需要はうなぎ上りで、そこに目をつけたのが予約席を高値で売るオンラインサイトだ。人気サイトの昨年の売上高は600万ドルに倍増。予約した席を転売する登録者数も1万5000人に膨れ上がっている。

◆人気レストラン予約席1050ドルで転売
 一般のニューヨーカーや観光客にとって、人気レストランの席を確保することはほぼ不可能だ。予約を確保するために、無料のオンライン予約サイト『レジー』のようなプラットフォームが利用されている。レジーは世界中の1万6000以上のレストランと連携している。ニューヨークで最も人気のあるレストランの予約は、予約開始後数秒で消えてしまうため、レジーでも予約確保は競争が厳しい。そこで、『アポイントメント・トレーダー』のような予約席転売サイトが登場した。

 アポイントメント・トレーダーは、2021年にジョナス・フレイによって設立されたオンラインマーケットプレイスで、レストランの予約を売買できる。出品者1万5000人が掲載した最良の予約を、ユーザーが入札するしくみだ。需要が高ければ高いほど、最終的な価格も高くなる。

 ニューヨーク・タイムズ紙の2023年の報道によると、アポイントメント・トレーダーは各予約の販売価格から約20~30%の手数料を取るという。NBCニュース(5/11)によると、昨年の予約販売の売上高は570万ドル(約8.9億円)に達した。ここ数週間の1日あたりの平均購入額は、2万ドル(約310万円)に上るという。

 ニューヨーカー誌(4/22)によると、ブラウン大学2年生のアレックス・アイズラーさんは、定期的に偽の電話番号と電子メールアドレスを使ってレジーを通して予約している。「声を変えて、女の子のように振る舞うときもある。女性の名前でレジーのアカウントをいくつも持っているんだ」と語る。予約した席はアポイントメント・トレーダーで転売する。たとえば、マンハッタンのソーホー地区にあるフレンチレストラン「メゾン・クローズ」のランチ・テーブル予約席を855ドル(約13万円)で、ウエストビレッジの高級イタリアンレストラン「カルボーン」の予約席を1050ドル(約16万円)で転売した。昨年は、7万ドル(約1100万円)を稼いだという。

 衛生管理業を営むニッキー・ディマジオさんは2月、ステーキハウス「4チャールズ」の予約をヘイリー・ビーバー(ジャスティン・ビーバーの妻)と彼女の友人たちに転売した。彼が請求する予約1件あたりの額は500ドルから1000ドルとされ、昨年には、ニューヨークの最先端を行くレストランを1000件以上予約したという。顧客リストには、NBA選手、銀行家、ミーガン・フォックスのような俳優が含まれている。(同)

 投資情報サイト『マーケットリアリスト』によると、予約するために、AI(人工知能)を使って1分間に100回も新規枠の空きをチェックしている者もいれば、予約の嵐に対応するためにチームを雇っている者もいるという。

◆NYナンバー1レストラン予約、30秒で売り切れ
 アポイントメント・トレーダーの創業者フレイ氏によれば、創業当初は、「営業停止命令が何通も来た」という。しかし、サイトが成長するにつれ、レストランのなかにはアポイントメント・トレーダーと提携し、対価を得て入札を認めるところも出てきた。(NBCニュース)

 ニューヨーク・タイムズ紙で2年連続ニューヨーク・ナンバー1レストランにランクされた「タチアナ」のマネージャー、シリア・アルバレス氏は、このやり方は、ただでさえ高級なオプションをさらに手の届かないものにしていると語る。「正当な方法で予約を取ろうとする顧客にとって、非常に腹立たしいことなのです」と批判的だ。タチアナの予約は、レジーで予約日の20日前の昼12時(東部標準時)に受付開始となるが、30秒もしないうちになくなる。1日の予約待ちは1200人を超える。(同)

 フレイ氏は予約に値札をつけることで、より多くの人が高級レストランの世界に足を踏み入れることができると論じる。「一般的に、待つということは嫌なものです。待ち時間がなく、ただ代価を払うだけというのが理想的なシナリオだと思うのです」と主張する。(同)

Text by 中沢弘子