人々の「危機感」を刺激、炎上したアップルCM 著名人らも批判
米アップル社がiPad Proの発売にあたって公開したコマーシャルが批判を呼び、同社は異例の謝罪を行なった。衝撃の内容とその批判とは。
◆「文化」が押し潰される生々しい映像
わずか1分ほどのコマーシャルは、どこかノスタルジックなメトロノーム音からスタートする。そして1972年にリリースされたソニー&シェールの楽曲『All I Ever Need Is You(訳:あなたさえいれればいい)』がレコードプレーヤーから流れ出す。次のシーンでは巨大なプレス機が現れ、そのステージに並べられたトランペットやピアノ、ギター、ペンキの缶、本、頭部像、カメラのレンズ、テレビ、emojiのアイコンなどが、ゆっくりと押し潰されていく様子が描かれている。カラフルなペンキが吹き出す様子は、まるで生き物から血が吹き出ているような雰囲気で、生々しい。そしてプレス機ですべて押し潰された後は空気でチリが吹き払われ、プレス機が持ち上げられると、その下からは薄さが特徴の新しいiPad Proが登場し、BGMの『All I Ever Need Is You』の歌詞とともにCMは終了する。
アップル製品のほかのCMに見られるようなシンプルさと斬新さがあるが、ワクワクさせるような要素に欠ける。音楽も写真も文学もなんでもiPad Proさえあれば作り出せてしまうのだという直接的なメッセージは伝わるものの、見た後は衝撃と不快感が残る。
◆寄せられた批判と異例の謝罪
コマーシャルは、5月7日にアップルCEOのティム・クックのXの投稿として共有された。投稿コメントには「新しいiPad Proの登場です。(中略)このiPad Proを使って、どんなものが生み出されるのか、想像してみてください」とある。しかし、「生み出される」という言葉とは正反対な破壊的なイメージを発信した広告に対して、クリエイティブな道具を破壊することに対する批判や、最悪のアップル広告だというようなネガティブなコメントが寄せられた。俳優のヒュー・グラントや、映画制作者で俳優のジャスティン・ベイトマンなどの著名人も、このCMに対して非難の声を上げた。
あまりに批判が広がったため、アップルは数日後に米広告業界誌『アドエイジ』を通じて謝罪コメントを出した。同社のマーケティング担当のヴァイス・プレジデントであるトー・ミレン(Tor Myhren)は、CMが的外れであったと謝罪し、「クリエイティビティはアップルのDNAであり、世界中のクリエイターに力を与える製品をデザインすることは、非常に重要。iPadを通じてユーザーが自分自身を表現し、アイデアを実現する無数の方法を称賛することが、アップル社の目標だ」と述べた。
AI(人工知能)の台頭により、人間のクリエイティビティが奪われていくという危機感が広がるなか、この「タイムリーな」アップルの広告が、より多くの人の神経に障ったという見方もある。世界のクリエイティブ界が、アップルが描く「未来」に注目するからこそ、今回のコマーシャルがより大きな衝撃を与える結果となった。