米国でのTikTokの未来はどうなる? 売却でなく撤退の可能性も
アメリカで、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」禁止につながる法案が成立した。これにより、9ヶ月以内に親会社の中国企業バイトダンスがアメリカ事業を非中国企業に売却しなければ、同国での利用が禁止されることになる。今後は法廷闘争に発展するとみられるが、先行きは不透明だ。
◆安全保障上のリスク 米国が売却を要求
禁止を支持する議員たちは、TikTokが国家安全保障上のリスクをもたらすと主張。中国政府がアプリを通じてアメリカ人をスパイし、プロパガンダを広めることを懸念しているという。アメリカのTikTokの利用者は、約1億7000万人いるとされる。
アメリカ政府が売却を求めても、買い手がつくかどうかは不明だ。USAトゥデイ紙は、TikTokの価値は数百億ドルで、超富裕層の投資家しか買えないと述べている。マイクロソフトなどの大手テック企業による入札や、ほかの大手の共同入札の可能性は高いが、グーグルやメタなどはバイデン政権の積極的な反トラスト法姿勢を理由に、買収には乗り出さないとみられるという。
さらに、バイトダンスは中国の法律に従っており、中国政府が反対しているため売却は困難だと見られる。TikTokの人気の基礎となっているのはレコメンドエンジンを動かすアルゴリズムであり、中国政府はそれをバイトダンスが手放すことは望んでいない(CNN)。ロイターによれば、アルゴリズム抜きで売却するのではという報道に対し、バイトダンスはその計画がないことを明言したという。アルゴリズムなしではTikTokの価値はなくなってしまうとも言われる。
◆排除は憲法上困難か? 敗訴なら撤退も
バイトダンス側は今後法廷で争う姿勢を見せている。コロンビア大学の法学専門家ナディーン・ファリド・ジョンソン氏は、TikTokを禁止することで、法案は憲法上の表現の自由を侵害することになると指摘。また、中国などの外国の敵対勢力は、データブローカーからアメリカ人の機密データを購入することができるため、法案は裁判所によって却下される可能性があると述べている。(CNN)
ロイターによれば、法的手段が尽きれば、バイトダンスは事業売却ではなく事業の閉鎖を選択する考えだという。実はバイトダンスの全収入とデイリーアクティブユーザーのうちTikTokが占める比率は小さく、閉鎖しても事業全体への打撃は限定的だと関係者はみている。
◆ユーザーどうする? なくなるとすればいつ?
閉鎖や禁止となれば、TikTokはアメリカのアプリストアから排除され、アプリの新規ダウンロードやコンテンツへのアクセスが事実上制限されることになる。困るのはユーザーだが、VPNを使って自分の居場所を隠す、代替アプリストアを使う、外国のSIMカードをインストールするなどの方法で若者は対応するのではないかとAPは述べる。しかし、それにはある程度の技術的知識が必要で、最終的にはほかのプラットフォームに移行する可能性が高い。
法廷に持ち込まれれば、解決までに数年かかる可能性があると言われる。BBCによれば、バイトダンスにはビジネス売却までに9ヶ月の猶予が与えられるが、アプリが禁止されるまでにはさらに3ヶ月の猶予期間が与えられる。アメリカから排除されるとしても、その時期は2025年になってからだということで、しばらくの間は、使えなくなる心配はないようだ。