オフィス回帰の有効策は出社手当、調査で判明 実施企業はわずか
米コロラド州コロラドスプリングスに住むジャスティン・ライアン・ホートン氏(22)は、2つの仕事をかけ持ちしている。24時間交代勤務の消防士の仕事がない時は、地域のコミュニティ・カレッジの事務スタッフとして在宅勤務を行う。
もちろん、消防士の仕事は在宅ではできない。コミュニティ・カレッジでの仕事はリモートで勤怠管理が可能だと知り、在宅勤務を選んだ。
ホートン氏は「消防士として働いていると家を空けることが多いです。帰宅してから次の仕事に出るまでの数分間しか家族と会えない、というのではなく、在宅での仕事によって家族との時間が増えた気がします」と話す。
新型コロナウイルスの流行を機に、世界中の何百万人にとって働き方のイメージが完全に変わった。対面でしかできない仕事が多くある一方、多くの企業が物理的なドアを閉め、職場をオンラインへと移行した。
その後、週のうちの一定日数のみも含め、出社する従業員が続々と増えている。出社回帰に向けての道のりは現在進行中であり、企業と従業員のどちらにとっても大きなハードルである。さらに、コロナ禍以前の働き方に戻ることはまったく想像できないと考える人は多く、企業の人材ニーズに対する取り組み方に影響を及ぼしている。
シカゴ大学全米世論調査センター(NORC)が発表した最新の調査結果によると、いつまでも出社を拒む従業員は企業から問題視されているものの、従業員の満足度を上げるために手当の支給を決めた企業は比較的少ない(13%)。
人事担当者の4人のうち3人が、出社したがらない従業員は問題であると回答した。そのうち「大きな問題である」と答えた担当者は19%で、残りの54%がささいな問題であると回答している。さらに、人事担当者のわずか3分の1だけが、自社の従業員が職場に戻ることに「非常に」または「とても」満足していると答えた。
NORCの「公共問題とメディア調査センター」に上級研究員として務めるマージョリー・コネリー氏はAP通信に対し「リモートワークを始めてから出費が減り、少しだけ気楽に日々を過ごせるようになったということに従業員は気づき、コロナ禍が収束し始めてからも今の状況を継続したいと考えているのです」と話す。
人事に関連する調査と、全米の成人を対象に単独で行った世論調査の双方において、従業員が在宅勤務を希望する背景として主に、柔軟性とワークライフバランスが重視されている点が明らかになった。また、在宅勤務を行っている人事担当者や従業員からの回答には、通勤に要する時間とコストを理由として挙げているものもあった。
メーガン・ホーミス氏(33)がリモートワークを好む理由もまた同様だ。南カリフォルニアにある広告マーケティング企業で上級顧客担当営業として働く同氏は、月に1度出社する。「オフィスまでは、車で片道1時間45分程度かかります。それよりも、私には2人の幼い子供がいて、保育所への送り迎えをこなすだけでも大変なのです」と話す。
同氏は今後もリモートで働けることを優先していくつもりだ。企業が十分な手当を支給し、出社に対する支援を提供するのであれば出社回数を増やすことも考えるが、方向性が変わるような機会はまだ得ていない。
柔軟性が鍵であると指摘するのは、ラトガース大学経営・労使関係研究所のビル・カステラーノ教授だ。特に、従業員に仕事のスケジュール管理を任せることが重要であるという。
「従業員は実に、仕事をする場所よりもむしろ時間を重視している」と述べるカステラーノ氏は、NORCによる調査には参加していない。柔軟性があることはリモートワークを続ける多くの人にとっての大きな利点であり、実際のオフィスにおいても、始業時間を調整できるなどの適切な方針を打ち出すことで同様の環境を作り出せるという。
より多くの従業員に出社を促すため、あるいはすでに出社している従業員の満足度を上げるための画期的な取り組みが、世論調査のなかでいくつか示された。出社と在宅を組み合わせた「ハイブリッド」な働き方をしている多くの人(55%)が、出社することで手当を多くもらえるのならば、出社回数を増やすことへの意欲が「大いに」増すと回答している。
働き方の形態がオフィス勤務、リモートワーク(44%)、ハイブリッド形式(50%)のいずれであっても、手当の増額が回答者全体の上位を占めた。しかしながら、従業員の出社を促すための新たな制度をすでに自社に導入し、手当の増額を実施したと回答した人事担当者はわずか4%であった。
頻度を問わずすでに出社している従業員からは、通勤手当や社内保育所、無償の食事提供や懇親会といった出社手当以外の報奨によってもまた、出社に対する「いくばくかの」満足感を得られるとの回答があった。
懇親会をはじめとするこれらの福利厚生は、単独でリモートワークを行っている従業員にはあまり影響がないとコネリー氏は指摘した上で、「たとえば、私は本社から数百マイル離れた場所で仕事をしています。本社では何度でも思う存分ピザパーティを開くことができますが、私がそこに参加することはありません」と述べている。
いずれにせよ、アメリカでは多くの従業員がすでに出社を再開したか、そもそもリモートワークに移行せず出社を続けている。NORCの調査によると大半の従業員が出社しており、そのうちの4分の3は会社から出社するよう通達を受けたと明かす。従業員の10人に1人が、リモートワークの選択肢はあるもののオフィスでの勤務を好むと回答している。
一方で、リモートワークもしくはハイブリッドで仕事をしていると回答した従業員はおよそ3分の1である。その理由として、利便性とワークライフバランスに加え、会社からの要請がないことが挙げられた。
リモートワークを続ける人の数は、コロナ禍ピークから大幅に減少してはいるものの、新型コロナウイルス流行前に比べると依然としてはるかに多い。
推定値にばらつきはあるが、ピュー研究所が3月に公表した調査結果によると、完全にリモートで仕事ができる人の35%が常に在宅で仕事をしているという。2020年10月の55%、2022年1月の43%から減少傾向にあるものの、コロナ禍前のわずか7%と比較するとずいぶんと増加している。
この結果は、企業による在宅勤務廃止の流れと一致している。アメリカ労働省労働統計局によると、72.5%の民間企業が、2022年半ばにはテレワークをほとんど導入しておらず、その数は1年前の60.1%よりも増加している。
カステラーノ氏は「この傾向は今後も続くとは思いますが、ゼロになるまで減少したり、コロナ禍前の水準に戻ることはないと思います」とした上で、「焦点はどのような日程で働くのかになるでしょう」とハイブリッド形式での勤務形態が増えていくとの見解を示した。
By WYATTE GRANTHAM-PHILIPS AP Business Writer
Translated by Mana Ishizuki