SNSで若者向けュースを配信する「ニュース・ムーブメント」 ティックトック、ユーチューブなどで
若者がソーシャルメディアに多くの時間を費やしているのであれば、ソーシャルメディアを介して若者にニュースを届けることは理屈にかなっている。
ウェブメディア『ニュース・ムーブメント(News Movement)』の運営会社は、この直感をビジネスに生かそうとしている。メディア業界は長年にわたり、20代の年齢層を新たな購読者として取り込む試みに失敗を重ねてきた。このような状況下にもかかわらず、創業後1年が経過したばかりの同社は成功を信じている。
ニュース・ムーブメントは、メディア企業「ダウ・ジョーンズ(Dow Jones)」の元経営陣の発案により創設された。レポーターには平均年齢25歳のスタッフを起用し、ティックトックやインスタグラム、ユーチューブ、ツイッターなどのプラットフォームに向けたニュースを制作している。
社長であるラミン・ベヘシュティ氏は「常に謙虚な姿勢で、あらゆるトレンドやアイデアに対して柔軟でいなければいけません。当社が追い求めている視聴者を反映するようなニュース編集室を作ってきました」と話す。同氏は、ダウ・ジョーンズの元CEOであるウィル・ルイス氏とともにニュース・ムーブメントを設立した。
ニュース・ムーブメントがティックトック用の動画制作を請け負っている通信社の一つにAP通信がある。AP通信はニュース・ムーブメントにオフィススペースを提供しており、またルイス氏は同社取締役会の副議長を務める。
なかには従来のニュースのあり方を重んじる人が驚愕するようなコンテンツもある。
友人たちが心穏やかになるような動画を好むことを知ったあるスタッフは、スナップチャット用に制作した中間選挙の「解説」動画に、グルーミング中の馬やピザが焼けている様子、花を育てている映像を使い、政治についての議論は音声のみで伝えた。
「Get Ready With Me(私と一緒に準備しよう)」で発信された動画では、女性2人が仕事に出かける準備をしながら、あるニュースについて話している。
ほかにも、たとえばトルコ地震の映像や、中絶やソーシャルメディアに関するバイデン大統領の政策をレポートするなど、より一般的な動画も配信されている。解説のためのストーリーは、一歩離れたところから、なぜそれがニュースになるのかを視聴者に伝える。
なかには、ニュースからは程遠く、個人的な経験に端を発するストーリーもある。ニューヨークを拠点とするあるジャーナリストは、なぜ警察は地下鉄の線路に落ちた人を救出するために即座に飛び込まないのかと疑問を感じた。よく調べてみると、警察は電車を停止させるための対応を行っていたことがわかった。
また、あるスタッフは、フロリダ州の住民による奇妙な行動がニュース報道の定番になっていることに関心を抱いた。同州の警察が他地域よりも早い段階で事件の写真や情報を公開することが多いことを知り、それを理由の一つとして紹介するためにティックトック動画を制作した。
あるいは、通りすがりの若者にデートの約束を破ったときに使う言い訳をインタビューするなど、ある種の情報を提供するような親しみやすいコンテンツもある。
アメリカ版ニュース・ムーブメントの編集長を務めるジェシカ・コーエン氏は「ニュースは必ずしもあなたが考えているようなものばかりではありません」と話す。同氏はこれまで、デジタルメディア関連の『マッシャブル(Mashalble)』や『モーニング・ブリュー(Morning Brew)』『ザ・カット(The Cut)』において指導者的役割を担ってきた。
コーエン氏は、ニュース・ムーブメントは情報収集サイトを目指しているわけではなく、トップニュースすべてを報じるつもりはないとしたうえで、「文脈や明瞭さを伝えられる問題を取り扱うつもりだ」と話す。
ストーリー構成は配信先のプラットフォームによって異なる。女性の安全や暴行事件をめぐるロンドン市警察の対応について、およそ14分間にわたる充実した内容の動画がユーチューブで公開された一方で、ティックトックに投稿される動画は大半が1分程度である。
ニュース・ムーブメントがコンサルティング企業「オリバー・ワイマン」と行った調査では、Z世代と呼ばれる20代半ばまでの若者の6割強が、ソーシャルメディアからニュースを得ると回答している。またほかの調査からは、Z世代は年長者と比べて、従来の報道機関に対する評価が低いという結果が示されている。
このことからニュース・ムーブメントは、若者を自社のウェブサイトやアプリへ引きつけるための報道機関による取り組みは前途多難であると感じている。
ベヘシュティ氏は「ニュースは仕事の感覚ではなく、日常的に摂取するようなものであるべきだ」と述べる。
ニュース・ムーブメントが制作したティックトックのストーリーをいくつか試聴した人からは、内容よりも勢いが強調されているように感じることがあると、賛否入り交じった批評が示された。ノースカロライナ州アシュビル出身の大学生で、ジャーナリズムを研究しているガブリエル・グリン・ハブロン氏(21)は、もっと「空気を読む」必要があると指摘した上で、「取り組みは評価します。ニュースメディアが推し進めるべきことの一つであり、その成果を示してほしいです」と話す。
1990年代にニコロデオン・ネットワークで放映され、成功モデルの一つとなった「ニック・ニュース(Nick News)」担当のリンダ・エラービー氏は「若者に訴えかけることの多い人は、伝えるべき相手を正しく理解していないために失敗することが多い」と述べる。Z世代が無関心であるという理解は間違っていると指摘する同氏によると、警察の手によるジョージ・フロイド氏の死に抗議するために立ち上がったのはこの世代だという。
いったいどれほど多くの人が従来のニュースに不満を抱いているのか。エラービー氏が発するこの問いに、ニュース・ムーブメントは同意する。物語の一部だけを知らされているような感じや、映画の途中を拾い読みしているような感覚をニュースから受けている人は多いのだ。その結果、より多くの解説者が必要であるとの声が高まる。
ニュースの購読者のなかでも若者世代は年長者に比べ、情報の事実確認を手軽に行う一方で偽情報を信じやすいということがニュース・ムーブメントによる調査によって示された。
ニュースはビジネスとしては不安定であるため、ニュース・ムーブメントは発足当初より多様性をビジネスモデルに取り入れてきた。従来からの報道機関と協働し、ソーシャルメディアチームの設立を支援する予定である。
ニュース・ムーブメントはメディアに対し、若者世代の購読者に影響をもたらす方法をアドバイスする。さらに、ソーシャルメディア向けにアメリカ政治に関連する動画コンテンツを制作する「リカウント(The Recount)」を買収した。同社は独立した組織として、運営を継続している。
ベヘシュティ氏は「利益を上げる手段は一つではだめです」と話す。
By DAVID BAUDER AP Media Writer
Translated by Mana Ishizuki