ネット証券の米ロビンフッド、退職金事業に進出 さらなる成長を目指す
アメリカのスマホ証券会社ロビンフッド・マーケッツは、金融商品の取引に楽しい要素を取り入れることで多くの初心者をひきつけ、ウォール街で急成長した。それがいま、退職金の積立という業界でも堅実な分野に着目している。
同社は12月6日、退職プログラムへの登録受付を開始し、IRAと呼ばれる個人退職金勘定に資金を積み立てられるようにした。
ロビンフッドがこの事業を手がけるのは初めてで、手痛い景気の悪化により株式や暗号資産(仮想通貨)のデイトレードが冴えなくなっていたところ、少しでも成長の落ち込みを取り戻そうとしている。
ブラッド・テネフ最高経営責任者(CEO)は「ロビンフッドは若年層の顧客にアプローチすることが多いものの、彼らの多くは雇用主が提供する従来型の401k年金制度を利用できる職に就いていない」と述べている。
アメリカの401kと言えば、多くの労働者が退職後に備えて資金を貯える手段として使われており、雇用主が自動的に加入手続きをとる。だがロビンフッドの顧客をみると、こうした年金制度の恩恵にあずかれない職種の人が多い。
テネフ氏は「最近は契約社員、パートタイマー、ギグワーカーが増えている」とした上で、「彼らは年金制度にアクセスできない。当社は年金制度をすべての人の手に届くようにしたい。雇用主は不要だ」とインタビューで語っている。
ロビンフッドでは、顧客がIRAに繰り入れる適格な資金の1%に相当する金額を提供するとしている。IRAに来年最大6500ドル(約88万円)を拠出できる人の場合、上乗せ額は最大65ドル(約8800円)になる。50歳以上であれば、来年の最大拠出額は7500ドル(約100万円)である。
早期に登録すれば今後数週間でロビンフッドのIRAにアクセスできるようになり、1月には全プログラムが利用可能となる。
テネフ氏によると、退職金積み立て制度については、かねてより顧客から要望を受けていたという。ロビンフッドの利益を大きく押し上げる事業になる可能性もある。
退職金を積み立てる人は概して、有利な条件を求めて証券会社を渡り歩くことがないほか、積立金は市場として大きな潜在性を秘めている。
アメリカ投資信託協会によると、今夏における全国の退職投資金は総額33.7兆ドル(約4550兆円)に達した。これは個人金融資産の31%に相当する。うちIRAは11.7兆ドル(約1580兆円)と、最大の構成要素を占めている。
ロビンフッドはパンデミックの期間中に多くの人気を集めた後、成長が大きく鈍化している。2021年夏の上場直後に70ドル超のピークをつけた同社の株価も、今年に入ってから約45%下落し、いまは10ドルを割り込む水準にある。
成長のピークは2021年前半で、当時は同社が初心者から転換させた新世代の投資家たちが、ゲームストップなど市場を歪めるほどの高騰をみせたミーム株騒ぎの立役者となっていた。だがその後、ミーム株熱は落ち着きをみせ、同社のもう一つの大きな収益源である暗号資産取引も同様の傾向にある。
ゲームストップ株が高騰した一因は、ロビンフッドやほかの証券会社の顧客のなかに、取引の波に乗ろうとオプション取引を利用する人が多かったところにある。オプション取引は往々にして、投資家が正しい判断をすれば報酬を増やせる可能性があるものの、リスクも増えてしまう。
テネフ氏によると、ロビンフッドの退職口座では、ほかのプロバイダーが可能としているオプション取引を少なくとも現時点では利用できないという。
同氏は「デイワン(開始当初)からは難しいだろう。取引できるのは株式とETF(上場投資信託)に限られる。顧客からのフィードバックをみながら運用資産の拡充をはかっていきたい」と述べている。
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