TikTokが米国でEC事業に本格参入か? 求人情報に手がかり
中毒性のあるショートムービーで有名なSNSプラットフォームとして知られるTikTokは、アマゾンやウォルマートを思わせる梱包や発送といった機能を備えた自社倉庫をアメリカで運営する計画を立てており、EC事業に進出しようとしているようだ。
同社はこの半月、ビジネスSNSのLinkedInに複数の求人情報を掲載し、アプリを使った販売を行う事業者向けのサービスをアメリカで開発・運営する人材を募集していた。それによると、同社は販売者に倉庫業務、配送、返品オプションを提供する計画があるという。
アメリカにおけるEC事業進出の計画について同社に質問したところ、広報担当は回答を控えた。
だが、この求人情報からは同社がアメリカでEC事業を拡大する可能性がみてとれる。無料返品プログラムの管理、倉庫や事業所間の在庫品の輸送計画、国内フルフィルメントサービスの開発を担当する人材を募集していると一部の求人情報で述べられている。シアトルを勤務地とする別の求人情報では、越境ECのチームや国際的な倉庫ネットワークの構築を担うチームメンバーに関する言及があり、同社の計画がさらに拡大する可能性のあることが示唆されている。
求人情報のなかでTikTokは「EC事業は近年成長が著しく、ネット大手の間では熾烈な競争が繰り広げられている。将来の成長性についても過少評価すべきではない。世界中に数百万ものロイヤルユーザーを持つ当社は、最新かつ優れたECの体験をユーザーに提供できる理想的なプラットフォームであると確信している」としている。
同社が求人を募集していることを最初に報じたのは、新興メディアの『アクシオス』だ。
調査会社インサイダー・インテリジェンスによると、アメリカではソーシャルコマースと呼ばれるSNSサイトを使った販売事業の市場規模は370億ドル(約5.5兆円)で、フェイスブックとインスタグラムを傘下に擁するメタがリードしている。TikTokの親会社で北京を本拠とするバイトダンスではすでに、中国版TikTokと呼ばれるムービーアプリ「抖音(ドウイン)」で人気のSNSマーケットプレイスを運営している。TikTokの広報担当によると、東南アジアやイギリスなど現在ECプログラムを展開している地域で導入されている「小売事業者に対するさまざまな商品機能と配送オプションの提供」に重点を置いているという。
インサイダー・インテリジェンスは、提携リンクを利用したりプラットフォーム上での取引をしたりして、約2370万人のアメリカの消費者が年に1回以上TikTokを使ってショッピングをすると予想している。
なかにはすでに効果が現れている販売事業もある。今年はTikTokに設けられた文学と読書に関連するコーナー「#BookTok」などのコミュニティの影響で恋愛系書籍の売上が急増した。同社は昨年夏、アプリ内ショッピングの導入でカナダのEC企業ショッピファイと提携し、ユーザーがアプリで売り手から直接商品を購入できるようにすると発表した。
YouTube、フェイスブック、インスタグラムから若年層ユーザーや人気のインフルエンサーを獲得する動きをめぐっては、メタやそのほかの競合との競争が激化している。TikTokの短くて面白い動画クリップは、消費者の求めているものを事前に知っているかのようなアルゴリズムによって表示されている。
その成果には見過ごせないものがある。メタは7月、TikTokとの競争の影響もあり創業以来初となる四半期での減収決算を発表した。一方、YouTubeでは最近、ショートムービーのクリエーターが同社の収益分配プログラムに参加するのを認めると発表した。以前は、長尺ムービーのクリエーターにしか認めていなかった。
メタのEC事業の収益は、同社のデジタル広告事業と比較すると限定的であり、短期的にはTikTokも同様の収益構造になるとみられる。TikTok幹部としては、YouTubeとグーグルを所有するアルファベットとメタの寡占状態にある広告事業以外にも、同社の事業を多角化したいようだ。
調査会社グローバルデータ・リテールのマネージングディレクター、ニール・サウンダース氏によると、TikTokのリーチ力と影響力は同社が広告と販売事業で主要プレーヤーとなるのに十分である上、その能力を倉庫などの施設で補強すれば完全なサービスを提供できるとしている。
同氏は「そうなれば新たな収入源が得られると同時に、消費者に優れた購買体験を提供できるだろう」と話す。だが倉庫業に本格進出すれば費用がかさむほか、アマゾンやウォルマートといった既存の競合他社との競争に直面することにもなる。
サウンダース氏は「とはいえTikTokには膨大な数の視聴者と顧客基盤がある。だから同社に対する需要は、新業務への進出が意味を持つ程度の水準を大きく上回る」としつつ、「TikTokの人気が衰えないという前提の下では、既存企業に脅威を与え、強い破壊力を持っていることが示されるだろう」と言う。
一方で異なる意見もある。
投資会社ウェドブッシュのアナリスト、マイケル・パクター氏は「TikTokの動きは馬鹿げている。競争する機会すら与えられないだろう。資金と時間の無駄遣いだ」と評している。
By HALELUYA HADERO AP Business Writer
Translated by Conyac