EVの転換点に? GM野望の第一歩、3万ドル「シボレー エクイノックスEV」来年発売
自動車メーカーは、バッテリー費用の高騰にもかかわらず手頃な価格の電気自動車(EV)を揃えて多くの購買層に訴求している。
米ゼネラルモーターズ(GM)は9月8日、小型SUV「シボレー・エクイノックス」の最新モデルを発表した。ベース価格は約3万ドル(約434万円)、1回の充電での航続距離は250マイル(400キロメートル)だという。余裕のある顧客向けに航続300マイル(500キロメートル)のモデルも用意している。
実際の価格が公表されるのは、来年の9月頃とされる発売日直前になるだろう。だが、平均価格が6万5000ドル(約939万円)とされるアメリカのEV市場において、『Edmunds.com』が発表しているEVのラインナップのなかでは最も安い部類に入る。
業界アナリストによると、主流の購買層がガソリン車からEVに乗り換える鍵となるのは、3万ドル前後の価格と300マイルほどの航続距離である。
Edmunds.comのインサイトディレクターであるイヴァン・ドルーリー氏は、「(GMの最新EVは)そのおいしいところを突いている。どのメーカーもこの価格帯を追求している」と話している。
エクイノックスが十分な荷物スペースと室内空間を備えた車内を効率的に利用し、ガソリンエンジンを搭載した現行の小型SUVと同様のスタイルを確保できれば、アメリカ自動車市場で最も人気のあるセグメントでヒットする車になると業界アナリストはみている。現在、アメリカで販売されている新車の約2割がコンパクトSUVである。
デトロイト地区にあるコンサルティング会社LMCオートモーティブでグローバル予測担当プレジデントを務めるジェフ・シュスター氏は、「少人数の世帯や子育てを終えた老夫婦など、SUVは多くのユーザーにとっての最適解であり、荷物を入れるスペースが十分ある上に、運転がしやすい」と述べている。
すべての条件を満たしたEVが3万ドルという価格水準は、同等の小型ガソリンエンジンSUVとほぼ変わらない。このセグメントのトップセラーで、ピックアップを除く車種で全米一売れている「トヨタ RAV4」のベース価格は2万8000ドル(約405万円)である。
数年前まで、EVといえば高価で富裕層向け、あるいは値段は安いが走行距離が限られるという代物だった。たとえば、全米一売れているEVブランド、テスラの最廉価車種「モデル3」のベースバージョンは4万8000ドル(約694万円)から販売されているほか、テスラの大型SUV「モデルX」のベース価格は12万ドル(約1734万円)である。
送料込み価格が3万ドルを切るEVは「日産リーフ」とGMの「シボレー・ボルト」しかなく、いずれもガソリンエンジン搭載のコンパクトSUVよりサイズが小さい。Edmunds.comによると、「MINI クーパー エレクトリック」「マツダ MX-30」「ヒュンダイ・コナ・エレクトリック」は3万ドル台で販売されている。
起亜(キア)「二ロEV」、ヒョンデ(現代自動車)「アイオニック5」、フォード「F-150 ライトニング」、フォルクスワーゲン「ID.4」、起亜「EV6」、トヨタ「bZ4X」、フォード「マスタング・マッハE」、アウディ「Q4 e-tron」、スバル「ソルテラ」、ボルボ「ポールスター2」、テスラ「モデル3」のベース価格はいずれも4万ドル台となっている。
バッテリーの主要原料であるリチウム、銅、コバルト、ニッケルなど鉱物の価格が急騰していることもあり、GMがエクイノックスの価格を3万ドル前後に抑えるのは難しくなるかもしれない。鉱物には限りがある。そして、ありとあらゆる自動車メーカーが新型EVを投入しているなかで鉱物への需要が高まっている。
ドルーリー氏によれば、GMがエクイノックスのベース価格を3万ドル程度に抑えられたとしても、需要の高まりを受けて高価格帯の車種を製造することになりそうだ。また、EVに対する需要が堅調であるため、自動車メーカーが提示する価格にマージンを上乗せして販売するディーラーもいる。今年上半期におけるアメリカのEV販売台数は前年同期比68%増の約31万3000台となった。
アメリカではインフレ削減法の規定により、来年から最大7500ドル(約108万円)の連邦税額控除が認められることから、EVの車種によってはさらに価格が下がる可能性がある。だが、控除の要件を満たすのは容易ではないかもしれない。
車体と電池の生産地は北米に限られるほか、電池用の鉱物や部品を同地域から調達することが段階的に義務付けられているためだ。電池に欠かせないリチウムなど大半の鉱物は現在、中国などからの輸入に依存している。
エクイノックスは北米生産の要件を満たしており、生産地はメキシコになる予定である。GMはバッテリーの生産予定地について明言していないが、オハイオ州ウォーレンですでに稼働済みの工場を含め、国内に3ヶ所のバッテリー合弁工場があると発表している。
GMはそれらを含め、税額控除を受ける要件を満たす取り組みを行っている。シボレーのマーケティング担当副社長であるスティーブ・マジョロス氏は「現在、規則と規制について対応しているところであり、すべて順調に進んでいると考えているが、詳細はまだ先の話だ」と述べている。
また、同氏はGMがEV部品のサプライチェーンをさらに管理し、政府の定める要件を満たしてすべての控除を得られるようになるまでには数年かかる可能性があると示唆している。
さらに、エクイノックスEVは同型のガソリン車と比べて全長と全幅が広がった一方で全高が抑えられたという。GMは新しいインテリアパッケージングの手法を導入し、ガソリンエンジンのエクイノックスと同等の室内空間・荷物スペースを確保した。価格差が大きくないことから、多くの顧客の目がガソリン車からEVに向かうとした上で、「ありとあらゆることに適切に対処している。やがて販売台数も増えるだろう」と話している。
同社のメアリー・バーラCEOは、2025年までにテスラを抜いて全米最大のEV車メーカーになると宣言している。エクイノックスEVは、そのための第一歩であるといえる。
マジョロス氏は「このモデルは、市場においてメインストリーム顧客が当社の製品を選ぶ際の一助になるだろう」と述べている。
By TOM KRISHER AP Auto Writer
Translated by Conyac