競争激化する植物性チキン市場 ビヨンドとインポッシブルが参入

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 ビヨンドミートとインポッシブル・フーズは、本格的な植物性ハンバーガーで成功を収めた。今度は急成長しつつあるが競争が激しい植物性チキンナゲット市場で、再び成功を目指している。

 ビヨンドミートは9月27日、そら豆を用いた新商品のテンダーを10月からアメリカの食料品店で販売すると発表した。ウォルマート、ジュエル・オスコ、ハリス・ティーターの3社が早くもこの商品を提供することとなった。

 インポッシブル・フーズは9月からウォルマート、クローガー、アルバートソンズなどの小売チェーン店で、大豆を原料としたナゲットの販売を開始した。年末にかけて1万店で展開する予定だという。

 カリフォルニア州を本拠とする両社は、植物由来のハンバーガーによってもたらされる新たな可能性を改めて示す役割を担った。ビヨンドバーガーは2016年当時、食料品コーナーで従来の肉類の脇で販売された最初の商品だった。その数年後、インポッシブルバーガーが追随した。

 しかし今回は両社の商品が同時に、さまざまな植物性チキンが入っている冷凍庫に納入される。植物由来のブランドを追跡調査している非営利団体のグッド・フード・インスティテュートによると、アメリカの小売店ではすでに50ブランド以上の植物由来のナゲット、テンダー、カツレツが販売されている。

 ケロッグ傘下のモーニングスター・ファームズやクォーンのように、何十年も前から植物性の肉を作ってきた企業もある。だがビヨンドやインポッシブル・フーズの参入により、ヴィーガンやベジタリアンのみならず肉類も食べる人々に向けたリアルな商品を作る多くの模倣企業が誕生することとなった。新興50ブランドのうち15%は、ニューヨークのスタートアップ企業シミュレートが開発したナグスや、カリフォルニアのダーリンフーズなど、2020年にアメリカ市場に新規参入した企業だ。

 これらの企業は従来の食肉市場のなかでは小規模の部類に入るものの、急成長している植物由来市場の一角を占めようとしている。ニールセンIQによると、植物由来の冷凍チキンテンダーおよびナゲットのアメリカでの売上高は、8月28日までの52週間で29%増の1億1200万ドル(約130億円)に達した。従来型の冷凍テンダーおよびナゲットの売上高は、同時期に17%増の11億ドル(約1250億円)となった。

 市場調査会社ユーロモニターの予想では、今年から来年にかけて、世界の代替肉の小売販売量は2%増の460万トンになる。一方、畜肉加工品の販売量は同時期に横ばいの1890万トンとなる見込みだ。

 パンデミックの影響で消費者の間では家庭での新たな調理法が求められたこともあり、植物由来の代替肉の需要が増加した。リース氏によると、食肉の不足や食肉生産施設での新型コロナウイルスの発生により、消費者が動物肉市場の利用について考え直すきっかけになったという。

 ユーロモニターのインダストリー・マネージャーであるトム・リース氏は、「新型コロナウイルス感染症が拡大する前から植物由来の代替肉の売上が伸びていた」と指摘する。同社の調査では、健康上の理由から世界の消費者の約4分の1が「肉の摂取を制限している」と回答している。

 肉であるか否かにかかわらず、パン粉をまぶしたナゲットは健康的な食品とはいえない。ビヨンドミートのチキンテンダー(1食あたり)は脂肪12g、ナトリウム450mg、タンパク質11g、210kcalであるのに対し、インポッシブル・フーズのナゲットは脂肪10g、ナトリウム320mg、タンパク質10g、カロリー200kcal。同サイズのピルグリム製チキンナゲットは脂肪14g、ナトリウム460mg、タンパク質10g、220kcalとなっている。

 インポッシブル・フーズのプロダクトイノベーション担当副社長であるセレステ・ホルツ・シエイテナー氏は、「牛肉の加工が気候変動の大きな要因となっていることもあり、植物性ハンバーガーから取り組みを始めることが大事だった」と述べている。同社は2035年までにすべての畜産物を持続可能なものに代替するという目標の一環として、植物由来のテンダーを1年かけて開発した。

 ビヨンドミートでは、以前から鶏肉を使った実験を行ってきた。同社は2012年にチキンストリップ(代替鶏肉)を発売したものの、ハンバーガーの製造に注力する必要があるという理由で2019年に同市場から撤退した。

 そら豆を使った新しいテンダーとは異なり、ビヨンドミートのハンバーガーにはエンドウ豆のタンパク質が使われている。社長兼CEOであるイーサン・ブラウン氏は、同社が10年以上かけてさまざまなタンパク源とその特性を研究してきたとしつつ、「ひとつのタンパク源に絞るのは望ましくない」とも述べている。

 ビヨンドミートのチーフ・イノベーション・オフィサーであるダリウシュ・アジャミ氏によると、新商品テンダーの最大の課題は鶏肉の繊維質の食感と脂肪の分布を再現することだった。植物性の鶏むね肉や霜降りのステーキを完成させるにはまだ長い道のりがあるが、200人の科学者とエンジニアが取り組みをはじめているという。ブラウン氏は、「目標は当社の商品と動物肉のギャップを埋めること」だとしている。

 価格差もある。ビヨンドミートの希望小売価格は8オンス(約230g)入りが4.99ドル、インポッシブル・フーズの13.5オンス(約380g)入りが7.99ドルである。タイソンフーズはウォルマートでチキンナゲットの2ポンド(900g)入りの袋を5.76ドルで販売している。

 多くの人が植物性食品を試してみたいと思っているのは確かだ。パンダエクスプレスが今年7月、ロサンゼルスとニューヨークの店舗でビヨンドミートのオレンジチキンを試験的に販売したところ、早々に完売した。同社では、このブランドのために特別に開発された商品の幅広い展開を検討しているという。

 ジャスミン・アルキレ氏は最近、ロサンゼルスにあるパンダエクスプレスの店舗でビヨンドミートのオレンジチキンを食べてみた。7年前にベジタリアンになった同氏は、「ビヨンドのチキンは、幼いころに食べたオレンジチキンに似た味がする。風味があるし、変な後味や不快な食感もなかった」と話す。

 いまのところ、ビヨンドミートには有利な点がいくつかある。ケンタッキーフライドチキンやマクドナルドなど大手ブランドと提携しているほか、インポッシブル・フーズの商品がまだ販売されていない中国に、すでに製造工場を開設しているからだ。

 インポッシブル・フーズは遺伝子組み換え成分を使用しているため、ヨーロッパと中国でのバーガー販売許可を当局に申請しているところだ。しかし、同社のチキンにはその成分は含まれていない。両社とも、海外でのチキン販売を計画している。

 インポッシブル・フーズは、消費者が同社のナゲットに魅力を感じることに自信を持っている。味覚テストの結果によると、多くの人が本物のチキンよりも同商品を好むことがわかった。同社のデニス・ウッドサイド社長は、「当社のチキンは身体にも環境にも優しく、動物の肉よりも美味しい。この商品にはかなり強力なバリュープロポジション(価値提案)があると考えている」と語る。

 一方他社ブランドは、それぞれの得意分野を防衛すると主張している。植物由来鶏肉のアメリカ大手モーニングスター・ファームズは、2019年に肉を忠実に再現したインコグミートという新ブランドを立ち上げた。

 モーニングスター・ファームズの親会社ケロッグで植物性タンパク質を担当しているジェネラルマネージャーのサラ・ヤング氏によると、植物由来カテゴリーでは同ブランドが最大の商品ポートフォリオを有しており、もっとも高いリピート購入率を誇っているという。同氏は、「当社にはこの分野で長年の実績がある」と述べている。

By DEE-ANN DURBIN AP Business Writer
Translated by Conyac

Text by AP