アマゾン配達員がオートロック開けて置き配 米で先行導入「キー・フォー・ビジネス」
アマゾンにとって、インターホンは厄介な存在だ。
ネット通販大手のアマゾンは、同社のドライバーがモバイルデバイスを使ってマンションのエントランスを自由に解錠できるよう、ときには金銭的なインセンティブを用いて、国内各地の建物の所有者に働きかけている。
「キー・フォー・ビジネス」と名付けたこのサービスは、荷物を屋外ではなくマンション内のロビーに手軽に置き配できるようにするもので、荷物の盗難を減らすために始まった。これにより、配達員が配送先を回る時間を削減できるため、アマゾンの利益につながる。さらに荷物の盗難も減らせるので、コストも削減でき、他社との競争で優位に立てるのだ。
デバイスの利用者は、配達時にいちいちインターホンを鳴らされることがなくなるし、何人もの配達員に暗証番号を提示するより安全だと評価している。
しかし、2018年に初めて発表されたこのサービスが普及するにつれ、セキュリティやプライバシーについて懸念の声が広がっている恐れもある。同社は、配達員には素行調査を実施しており、スキャンする荷物を持っているときでなければドアを解錠することはできないとしている。しかし、ドライバーがエントランスを開けられる旨を居住者に通知するかどうかは建物の管理者側に委ねられているため、居住者が知らないということもあり得る。
プライバシーについて研究を行い、過去にバラク・オバマ元大統領の上級技術顧問を務めたこともあるアシュカン・ソルタニ氏は、アマゾンのデバイスをはじめ、インターネットに接続されたデバイスにはどのようなものにもハッキングの危険があり、ドアを解錠しようと悪巧みをする人も出てくるかもしれないと指摘する。
米国連邦取引委員会の元主任技術者でもあるソルタニ氏は、「つまり、本来は内部ネットワークだったはずのところに、よそのインターネットに接続されたデバイスを取り入れようとしているのです」と話す。
ハッキングの危険性に関する質問について、アマゾンから回答は得られていない。
同社はアメリカですでに数千棟のマンションにデバイスを設置しているが、具体的な設置件数は公表していない。デバイスを設置済みの建物には、インターホンの部分に同社のスマイルのロゴが描かれた丸いステッカーを貼るなど、印を残している。ニューヨーク市のある通りでは、11棟中3棟にステッカーが貼られていた。その近くの別の通りを見てみると、7棟中2棟にステッカーがあった。
アマゾンの営業担当者は全国各地の都市に出向き、訪問や電話で、あるいは路上でマンションの管理者に声をかけ、デバイスの設置を促している。
同社はすでに各地の鍵屋とも提携しており、鍵を修理する間にマンションの管理者に対し営業を行っている。デバイスの設置費用は無料で、導入を決めた人には100ドル相当のアマゾンギフト券を贈呈することもある。
ソルタニ氏が「キー・フォー・ビジネス」について知ったのは4月のことで、アマゾンの営業担当者2人が、カリフォルニア州オークランドで同氏が居住する建物への出入りを求め、話を持ちかけてきたそうだ。
しかしビルの管理者が断ったため、デバイスは設置されなかった。
ケントン・ジラルド氏の場合は、もっといい反応が得られた。シカゴにマンションを所有するジラルド氏は、荷物の盗難があまりにも多く発生するようになったので、屋外に宅配ボックスを作ろうと思っていたが、盗難防止策として所有物件のうち4棟にデバイスを設置することを認めた。
ジラルド氏はアマゾンのデバイスについて、「お金を払ってでも設置してもらったはずです」と言う。
現在、マンションに立ち入り郵便受けまで行くことが許されているのは、米国郵便公社(USPS)のみである。郵便公社によると、同社は2018年に電子ロックを扱う会社と協力し、職員が各部屋のインターホンを押さずにマンションに入れる仕組みのテスト運用を行った。しかしこの運用は終了しており、その理由は明かされていない。代わりに、不在時には荷物を近所の食料・雑貨品店やクリーニング店、花屋に届けてもらうことができるとしている。
この件について、米物流大手フェデックスはコメントを控えている。
アマゾンは長年にわたり、住居のエントランスを通過する術を模索してきた。2017年には、購入者が許可すれば不在時に配達員が住居へ立ち入り、玄関に置くことができる「置き配」サービスを開始した。そのすぐ後にウォルマートも同様のサービスを始めたが、こちらは配達員が自宅の冷蔵庫まで食料品を届ける。アマゾンもウォルマートもこれらのサービスの利用者数は公表していないが、いずれも最近、サービスの対象都市を拡大している。
2018年には、アマゾンはマンションに狙いを定め、「キー・フォー・ビジネス」を開始し、大手不動産主らと開発段階でデバイスを設置するという契約を結んだ。このような動きが加速したのは、アマゾンが営業担当者を全国に配置した昨年あたりのようである。マイアミおよびサンアントニオの最新の求人票を見ると、営業担当者の1ヶ月あたりの報酬は、賞与と歩合給で3000~1万1000ドルである。アマゾンによるこの試みへの出資額は明かされていない。
アマゾンのすべての荷物がエントランスを通過できるわけではない。購買行動の調査を行う楽天インテリジェンスによると、アマゾンの荷物のうち自社で配達しているのは約60%である。残りの荷物は、エントランスを通れないほかの配送会社を通して配達されている。
メリーランド大学のロバート・H・スミス・スクール・オブ・ビジネスで物流を研究するフィリップ・T・エバーズ教授は、できるだけ多くの建物にデバイスを設置したいというアマゾンの野望が、競合他社を締め出すことになるかもしれないと指摘する。
エバーズ氏は、「一社には設置を許可してもいいが、ほかの会社にももれなく許可するわけにはいかないというのが、マンション所有者の考えでしょう」と言う。さらに同氏によると、アマゾンのこのサービスによって購入者が返品する商品をわざわざ郵便局まで持っていかなくても、ロビーに置いておけば配達員に集荷してもらえるなど、ほかの使い道もあり得る。アマゾンは、将来のプランを明かしていない。
ピュブリシス・コミュニケーションズのチーフコマース戦略オフィサー、ジェイソン・ゴールドバーグ氏によると、デバイスを設置することで配達員がシフト時間内に届けられる荷物の数が増える上、盗難被害を受けた利用者への返金を減らせるので、同社のコスト削減につながる。
同氏は昨年12月、シカゴのマンションでインターホンを交換している鍵屋から、「キー・フォー・ビジネス」を無料で設置するという話を受け、そのサービスを知った。建物の管理を手伝っている同氏は、その後、アマゾンの営業担当者に100ドルのギフト券をちらつかされ、デバイスの設置を許可した。
ゴールドバーグ氏は、「設置料を取らないのは、アマゾンが得られる利益の方が大きいからです」と言う。
By JOSEPH PISANI AP Retail Writer
Translated by t.sato via Conyac