ウーバーの「判断」と、アフリカにおけるギグ・エコノミーの課題と可能性

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◆アフリカにおけるギグ・エコノミーの課題と可能性
 国際労働機関(International Labour Organization:ILO)の2018年時点の報告によると、アフリカにおける雇用の85.8%が、インフォーマル・セクター(非公式経済)におけるものだ。インフォーマル・セクターにおける職種は、たとえば露天におけるモノやサービスの販売などで、その経済活動が政府の公式データとして記録されず、雇用者は法律や社会保障によって保護されない。また、ナイジェリアのラゴスや、ケニアのナイロビなどの大都市では、とにかくいろいろなギグ・ワーク(フォーマル・インフォーマルセクター問わず)で日銭を稼ぐ若者に出会うことも少なくない。こうした人々は、自分たちのことを起業家(entrepreneur)や自営業者(self-employed)と称し、まわりからはハスラー(hustler)と呼ばれたりする。産業が未発達で、大企業などによる正規雇用の選択肢が限られている都市においては、ギグ・ワークで生計を立てるということは、オルタナティブな選択肢というよりは、デフォルトの選択肢であることが多い。ギグ・ワークは、柔軟な勤務体系が選択しやすいというメリットがあるが、収入が不安定で保障もない。

 スマートフォンの普及、そしてウーバーやボルトなどのライド・シェアサービスや、フードデリバリーなどのサービスの普及は、デジタル化されたギグ・ワークの選択肢として、大きな可能性を持つものである。マスターカードが発行した東アフリカのギグ・エコノミーに関する白書によると、2020年の調査結果では、回答者の47%が携帯を使ってギグ・ワークの予定を立てている。また、8割のギグ・ワーカーが、携帯を使って、職探しを行い、予定を調整し、報酬の支払い、収入管理を行っているとの結果だ。ケニアではウーバー、スペイン発のフードデリバリー・サービスであるグロボ(Glovo)、そしてボルトが人気プラットフォームのトップ3。こうしたサービスは、簡単に登録できて、簡単に仕事を見つけることができるというのが魅力のようだ。一方で、白書ではこうしたギグ・ワーカーのキャッシュ・フローの不安を解決する必要性も指摘している。具体的には、即払いのしくみ、事故や怪我に対応するための保険サービス、ローンへのアクセスなどが必要だ。

 ギグ・エコノミーにおけるサービスは、デジタル化によって、アフリカにおけるインフォーマル・セクター市場の効率化に貢献している。しかし、失業率が高く、労働市場が不安定な経済において、ギグ・ワーカーはより脆弱な状況に立たされる。だからこそ、ウーバーなどのグローバル企業が、ドライバーなどのギグ・ワーカーを保護するため、グローバル基準を定め、展開することは、南アフリカやケニアなどのギグ・ワーカーにとっては、より大きな影響をもたらすことになる。今回のウーバーの英国における判断は、「ゲーム・チェンジャー」として見られている。同社の、各国における今後の判断に期待がかかる。

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Text by MAKI NAKATA