ウーバーの「判断」と、アフリカにおけるギグ・エコノミーの課題と可能性

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 米国発のライドシェア・サービスのウーバー(Uber)は、現在アフリカにおいては、南アフリカ、コートジボワール、エジプト、ガーナ、ケニア、モロッコ、ナイジェリア、タンザニア、ウガンダの9ヶ国27都市で展開している。ライドシェアに代表されるようなギグ・エコノミーの市場システムにおけるサービスは、働き手にとっては、比較的手軽に仕事につけ、好きな時間に働くことができるというメリットがある一方で、企業による搾取も問題になっている。ライドシェア・サービスを通じてみる、アフリカのギグ・エコノミーの課題と可能性とは。

◆ウーバー・ドライバーの権利をめぐって
 3月16日、ウーバー・テクノロジーズ(以下、ウーバー)は同月17日以降、英国のウーバー・ドライバーを「労働者(worker)」として扱うことを発表した。約7万人のドライバーが対象だ。労働者というカテゴリは、英国雇用法に基づく特殊な分類で、従業員(employee)とは異なる。納税目的では労働者は自営業者とみなされるが、英国の最低賃金、有給休暇、場合によっては年金などが保証される。この発表は、2月19日に出された、ドライバーを労働者として扱うべきであるという英国最高裁判所の判決を受けたものだ。ウーバーは当初判決を軽視していたが、さらなる法的紛争への発展のリスクがあったため、今回の発表に至ったようだ(ニューヨーク・タイムズ)。

 労働者という分類は、英国雇用法ならではだが、ウーバー・ドライバーの権利をめぐる動きは米国でも発生している。米国のニューヨーク市やシアトル市ではウーバーやリフトなどのライドシェア・サービスのドライバーに対して、最低賃金基準を設ける法案が可決されている。一方で、ウーバーは、ドライバーを請負人ではなく従業員として扱うべきだという米国における判決に対して、これまで強い姿勢で反発してきた。カリフォルニア州では、ウーバー・ドライバーのようなギグエコノミーの労働者を州の労働法適用から除外する条例を可決させた。

 しかし、今回の英国での決定は国際的な影響力が少なくない。たとえば南アフリカでも、ウーバー・ドライバーを従業員として認めさせるための集団訴訟の動きが進んでいる。ドライバー側が勝訴すれば、1万2千から2万人のドライバーが対象となる。同国では、今年1月、宅配サービスのウーバー・イーツのドライバーによる、配送料削減に伴う収入の減少を受けてのストライキも発生している。

 ウーバー・ドライバーのストライキは、ナイジェリアやケニアでも発生している。4月19日、ナイジェリアのラゴスでは、ライドシェアのドライバーで結成される組合、PEDPA(Professional E-hailing Drivers and Partners Association)によるストライキが開始された。ラゴスではそれぞれ2014年と2016年に市場参入した米ウーバーと、エストニア発のボルト(Bolt)が市場争いを展開し、価格競争が行われている。さらに、インフレやガソリン価格の上昇などが伴い、ドライバーのマージンが圧迫されている状況だ。PEDPAはウーバーやボルトがドライバーに課金する手数料率の引き下げを求めているが、現時点では2社からの対応は発表されていないようだ。

 ボルトは現在アフリカでは、ガーナ、ケニア、ナイジェリア、チュニジア、タンザニア、ウガンダ、南アフリカの7ヶ国で展開している。展開国数はウーバーよりも少ないが、ケニアでは17都市、ナイジェリアでは24都市、南アフリカでは22都市と、大都市以外でも多都市展開しているのが特徴だ。いずれにしても、各国の大都市においては、ライドシェア・サービスの市場争いと価格競争は続きそうだ。今年3月には、南アフリカのケープタウンで、中国のライドシェア・サービスDidiが展開を開始した。Didiは中国シェア・ナンバーワンのサービスで、アリババ、アップル、DST、ソフトバンク、テンセントといった主要グローバル企業が投資する、ディディチューシン(滴滴出行:DiDi Chuxing)が展開するサービスだ。現時点ではケープタウンにおけるDidiの価格は、ウーバーやボルトを上回るようだが、今後、Didiがアフリカ各地での市場拡大を図れば、価格競争力が増加することが見込まれる。ドライバーは、複数のサービスに登録することが可能だが、競争の激化によって、ドライバーは長時間労働やマージンの圧縮といった課題に直面する。

Text by MAKI NAKATA