そろそろパーティ開いても? いまも先の見えないイベント業界
アメリカではようやく結婚式などの祝賀行事がカレンダーに戻ってきた。しかし一方で、イベント関連企業の経営者は「コロナ禍からの回復は遅れるだろう」と覚悟している。
ジョー・バイデン大統領が成人向けの予防接種スケジュールを加速するなか、ウェディングプランニング・サービスを提供するローレン・シェーファー氏への問い合わせ件数は増加している。同氏が経営する「ゲット・トゥギャザー・イベンツ(Get Together Events Co.)」はニューヨーク、シカゴ、ナッシュビルでビジネスを展開しており、今年に入ってからの予約件数は60件で、69件だった2019年の水準に戻りつつあるという。
それでも、シェーファー氏はまだ気を緩めてはいない。いまもまだ多くの地域で大人数での集会が制限され、盛大な結婚式を夢見るカップルのなかには挙式日を確定させることを躊躇する人も多いからだ。一部の州や地方自治体では、アメリカの伝統的な結婚式に欠かせないカクテルアワーやダンスフロアを制限している。
同氏は、「クライアントには、制限があるなかでの結婚式に抵抗がないのであれば、いまより状況が良くなることを願いつつ前に進みましょう、と伝えています」と話す。
問い合わせや予約が増えても、「不確実」という言葉がイベントプランナーやケータリング業者といったイベント関連企業にのしかかる。それは政府の規制に限らない。大人数での集会を不安に感じる人もまだ多いからだ。
パーティ会場やイベントスペースの新規予約の多くは今年後半、もしくは2022年のものだ。今春末や夏にかけては2020年に延期された結婚式などの予約で埋まっている可能性もあるが、多くの州ではいまも集会規模が制限されており、近い将来はまだ「どうなるかわからない」という不確実さを残している。
ニューヨーク州ロングアイランド島に位置するベイティング・ホローの結婚式場「ジョルジ(Giorgi)」の共同所有者であるニック・キャシオ氏は、「今後数ヶ月はやや不透明な状況です。制限は解除されましたが、4月と5月の件数はほんの一握りでした。クライアントも計画を立てる時間が必要ですから」と話す。ニューヨークでは、3月に結婚式の参加人数を50名から150名まで制限が緩和された。
昨年のパンデミック以後、ジョルジでは20件の結婚式が開かれたが、いずれも参加者は500名の収容人数を大きく下回る50名だった。通常は、平均200名ほどの式が年間150件ほど開かれる。キャシオ氏は、「ワクチン接種が拡大して感染が収まれば、徐々に自身のビジネスも通常に戻るだろう」と楽観的にみている。今年に入ってから、すでに60件ほどの予約が入っているという。
結婚式やパーティーへの関心が回復するなか、マサチューセッツ州イプスウィッチを拠点とするプランニング企業「フォーティセカンド・ノース(42 North)」の共同所有者であるフランシー・ドルマン氏は、「パンデミックは、食べ物や花、音楽と同じくらい考慮すべき要素」と考えている。一部の会場では、1テーブルあたりの人数を通常の8人や10人から、6人に制限しているという。バーサービスを控える地域も多く、ゲスト同士が交流するカクテルアワーも座ったまま実施するケースもある。
同氏は、「春、夏、秋に向けてさまざまなシナリオに備えておく必要があります。クライアントに対しては常に、最悪の事態に備えつつ最善を望みましょう、とメッセージを送っています」と話す。
ドルマン氏の会社が問い合わせや予約の受付を再開したのは今年の1月20日ごろ、バイデン大統領が就任した時期だ。アンソニー・ファウチ博士をはじめ、新型コロナウイルスの専門家は今後も感染拡大の恐れがあると警告しているものの、同氏は今後ビジネスが改善していくと楽観視している。
ドルマン氏は、「『今後、感染再拡大はない』と言い切るのは怖い、という人も多いです。年配のゲストのなかには、出席をためらう人もいるかもしれません。ただ、私は二度と閉鎖されないことを願っています」と話す。
コロナ禍では、イベント業界も縮小を余儀なくされた。政府による閉鎖や規制により、イベント会場や花屋、ウェディングドレスメーカーなど、多くのイベント関連企業が廃業に追い込まれた。オークションのサイトには、廃業したイベント会場やレンタル会社の宴会テーブルや椅子などのアイテムが出品されている。閉鎖した企業の数は明らかではないが、その分今後イベントを開く人の選択肢が減ってしまうことになる。
企業のイベントや結婚式などの祝賀イベントを企画するプランナーのハイジ・ヒラー氏は、パンデミックの最中に別の仕事を見つけた照明スタッフなど、専門技師の人材流出を懸念している。
メリーランド州オーウィングス・ミルズを拠点とする「イノベーティブ・パーティ・プランナーズ(Innovative Party Planners)」を経営する同氏は、「我々のサプライヤーの多くは、スタッフの大幅削減を余儀なくされました。また新たに教育して成長させるには、時間がかかります」と話す。
ヒラー氏が目にする限り、イベントの企画や実施の準備ができている企業や組織はないという。その多くはいまだに、「いかにしてスタッフをオフィスに戻そうか」と頭を悩ませている。同氏が手がけるイベントの多くは対面とバーチャルのハイブリット形式のものが多く、2020年後半には60件もの結婚式やバル・ミツワー(ユダヤ教の成人式)をバーチャルイベントとして開催することでビジネスを維持してきた。
いまのところ、先行きを見通すのは難しい。ヒラー氏は、「9月のレイバー・デーの週末に実施予定だったライブソーシャルイベントがキャンセルされ、同じ週に別のクライアントが150人規模のバル・ミツワーのプランを進めています」と話す。
結婚式のプラン件数は徐々に増えつつあるが、ターニャ・ルトナー・ハートマン氏が経営するオハイオ州コロンバスのブライダルショップ「ギルディッド・ソーシャル(Gilded Social)」の売上は、依然として3分の1以上減少したままだ。昨年結婚式を延期した花嫁はすでに衣装を用意しており、今年後半や2022年に式を予定しているカップルも「10人のブライズメイドを揃えた盛大な結婚式」は考えていないため、ハートマン氏の店で売れるドレスの数は少ない。
また、同氏はカップルの「結婚式観」が変化していると感じる。この変化が、イベント業界の別のビジネスにも影響を及ぼす可能性がある。たとえば、パンデミック以前はSNSで注目されるようなユニークな写真を撮ることが優先されたが、いまの花嫁はより有意義な結婚式を開くことに関心があるという。
ハートマン氏は、延期された結婚式が実施される来年まで、自身のビジネスがパンデミック前のレベルに戻るとは思えない、と予測している。
イベントの規模が縮小するということは、時間給で働くカメラマンの収入も減る、ということだ。アンジ・マーティン氏とピート・マーティン氏の夫妻は、「問い合わせや予約件数は増加しているものの、フルサイズの結婚式の需要はまだパンデミック前のレベルに戻っていない」と話す。パンデミック前の典型的な結婚式は150名から200名の招待客でパーティにかける時間も4、5時間だったが、25名の小規模な結婚式はそれよりもはるかに短時間で済んでしまう。
ワシントンDCに拠点を置く同夫妻によると、慎重で小規模なパーティーを望むケースと、コロナ禍でも盛大なイベントにしたいと望むケースの両方が混在しているという。
マーティン氏は、「大規模な結婚式を選んだカップルは、『大きな結婚式をしたかったのだから、前に進むしかない!』と言っています」と話す。
By JOYCE M. ROSENBERG AP Business Writer
Translated by isshi via Conyac