増えるネット通販の返品、米小売店の対応は? 無料集荷サービスも
新型コロナウイルスの感染が広がるなか、ネット通販の人気が高まっている。小売業にとってはありがたい反面、負担も大きい。
数百件のブランドを相手にネット通販における返品管理を請け負うソフトウェア・テクノロジー企業のナーバーは、クリスマス休暇期間中の返品件数が前年から倍増することを見込んでいた。小売業者らの負担額は11億ドルにのぼる。
小売業者にとって返品は望ましいものではないが、消費者が店舗での買い物に不安を感じているなか、実物を見たり試着したりしなくても商品を安心して購入できるような配慮は必要だ。
昨年3月以降、ネット通販の人気が大幅に高まり、UPSやフェデックスをはじめとする運送業者は、クリスマス商戦の時期を前にすでに手一杯の状態だった。しかし、ネット通販の売上は増加を続けている。アドビ・アナリティクスによると、昨年11月1日から12月22日にかけての売上は、前年同期と比べて32%増の1716億ドルと大きな伸びを見せた。また、数週間後、数ヶ月後には新型コロナウイルスのワクチンを輸送するという大きな課題が待ち構えており、輸送システムにさらなる負担を強いられる恐れがある。
買い物情報サイト『リテールミー・ノット』で活躍し、ショッピングに詳しいサラ・スカーボール氏は、「消費者が返品を希望しても、商品が店舗に返送されてから2週間ほど待たなければ、払い戻しを受けられないことも起こり得る」と指摘する。
購入者が返品したい商品を持ち込める窓口を増設している企業も多く、輸送費用の削減や、返金までの時間短縮に役立っている。
コールズは一昨年、1000店にのぼるすべての店舗で、アマゾンの商品の返品受付を開始。返品希望者は箱やラベルがついていなくても、無料で商品を引き取ってもらえるようになった。昨年には、ホールフーズ・マーケットの500店舗でもアマゾンの商品の返品受付が始まった。アマゾンはまた、UPSの店舗でも同様に返品商品を引き取ってもらえるよう、以前より同社と提携を結んでいる。
カリフォルニア州サンタモニカに拠点を置き、ロシーズやリボルブなど約150のオンライン小売業者を相手にしているスタートアップ企業のハッピーリターンズは、一昨年は700ヶ所余りだった返品窓口を2600ヶ所に増やした。うち2000ヶ所はフェデックスの窓口である。
ハッピーリターンズの共同創業者でCEOを務めるデビッド・ソビー氏は、「返品業者にとっては絶好の機会です。毎日のように記録が更新されています」と言う。同氏によると、昨年12月に同社が扱った返品件数は、11月から50%増加した。
米国の小売最大手ウォルマートは昨年12月末、フェデックスと新たに業務提携し、ウォルマート・ドット・コムから販売・発送された商品であれば、無料で購入者の自宅に引き取りに行くサービスを始めると発表した。このサービスは、クリスマスのショッピングシーズンが終わっても継続している。
また、特定の返品商品については、あえて送り返さないよう呼びかけている小売業者も増えている。
ディック・ピロッツォーロ氏(77)は、『オンライン・サイクリング・ギア』というサイトで40ドルのジャージを購入したが、小さすぎたので返品しようとしたところ、予期せぬ返答に喜ぶこととなった。追加で10ドルを支払ってくれればちょうどいいサイズのものを発送するので、手元の商品は送らず捨てるか、友人にあげたり寄付したりしてほしいと告げられたのだ。
マサチューセッツ州ウェルズリー出身で自転車愛好家の同氏は、「それで問題ありませんでした。友人にもいいことをしてあげられたし、新しいシャツも手に入ったのですから」と言う。今回の件で、連休中にもっとネット通販を活用しようと思えたそうだ。
アリックスパートナーズで小売業務のグローバル・コリーダーを務めるデビッド・バサック氏によると、店舗でも買い物客があまり罪悪感を抱くことなく商品を返品できるようになりつつある。
同氏は、「消費者はサイズがわからなければ、両方のサイズを注文します。色を選べないなら両方の色を買えばいいし、どの商品がいいかわからなければ、すべて買ってしまえばいいのです。しかし小売業者からすれば、それでは費用がかさんでしまいますし、そのすべてをまかなえるような体制も整っていません」と話す。
フォレスター・リサーチのオンラインアナリスト、スチャリタ・マルプル氏によると、店舗で購入した商品の平均的な返品率は8%であるのに対し、ネット通販では商品の25%が返品されている。洋服についてはさらに高く、返品率は約30%にのぼる。
しかし専門家らによると、返品されたすべての商品を同じように扱うことはできず、価格の下げ幅はそれぞれ異なる。小売業者は返品を受けたら、その商品の状態を評価し、再び販売するのか、回収業者に引き取ってもらうか、それとも廃棄するか決めなければならない。
返品商品を扱う物流会社のオプトロは、アパレル商品の価格は8~16週間で20~50%下がると見積もっている。そのため、返品商品をすぐさま返送してもらい、再販することがきわめて重要となる。
また、昨年の返品事情は複雑で、小売業者らは発送の遅延や店舗の混雑を避けるべく、クリスマス用のギフトを早めに購入するよう呼びかけていたため、クリスマスが近づくころには返品期限が切れてしまう恐れもあったのだ。
アマゾンは、10月1日から12月31日に発送された商品の返品を1月31日まで受け付けており、購入者が返品を決めるまでの猶予期間を長めに設けている。一昨年は、10月に発送された商品は対象外となっていた。
カリフォルニア州ニューポートビーチのレイチェル・サケラリス氏(25)は、ブラックフライデーにボーイフレンドへのクリスマスプレゼントとして防水性のバックパックを購入したが、返品期限が30日と定められていることに気づいた。そこでボーイフレンドがそれを気に入らなくても返品できる期間を設けるため、プレゼント交換の日を一週間早めた。
あまりに急いで買い物をしてしまうと、ほかにもさまざまな災難に見舞われることがある。
バージニア州チェサピークのサラ・ハフマン氏(40)は、クリスマス休暇に向けていち早くスタートを切ろうと、5人の息子のために60ドルのペアのパジャマや90ドルのXboxなど600ドル分のプレゼントを、5月にアマゾンで購入した。
しかしその後、元軍人の夫が、上司のコロナ対策がずさんすぎると言って仕事を辞めてしまった。現在、ハフマン氏の家計は日々の食事にも困るような状況だが、購入してしまったプレゼントの一部は返品期限が過ぎているため返品できない。
ハフマン氏は「急いで買い物をすることで、パンデミックのストレスを解消しようとしていました。日常の何気ない選択が、事態をさらに悪化させることになるとは思いませんでした」と話す。
By ANNE D’INNOCENZIO AP Retail Writer
Translated by t.sato via Conyac