伝統工芸品をネット直販 コロナ苦境の職人救うインドのオンラインプラットフォーム
自然にインスパイアされたモチーフを使ったインド伝統の切り絵アート「サンジー(Sanjhi)」。ラム・ソニ氏(49)は、その制作によって生計を立てる職人だ。ソニ氏の家系では、サンジーの技法を代々大切に受け継いできた。
ソニ氏が使う特殊なハサミは、この技法を幼い頃の彼に伝えた両親が手渡してくれたものだ。このハサミを使い、ソニ氏は折りたたんだ紙を根気強く細かく切り抜き、対照的な二色の紙からなる複雑な切り絵アートを作り上げていく。
2020年初め、インド政府は新型コロナウイルスのパンデミックを封じ込めるため、長期にわたるロックダウン政策を開始した。この影響で、ソニ氏の切り絵の売上はいったんゼロにまで落ち込んだ。
ニューデリーを拠点とするデザイナーのシーラ・ルンカッド氏と、その夫で建築家のラジーブ・ルンカッド氏が展開する「Shilp se Swavlamban(シルプ セ スワヴラムバン:クラフトを通じたエンパワーメント)」キャンペーンは、まさにソニ氏のような職人を支援することを目的に、職人たちに向けてコラボレーションや作品の展示・販売のためのオンラインプラットフォームを提供するものだ。
ルンカッド夫妻は2015年、ダイレクト・クリエイト(Direct Create)社を設立した。同社が目標に掲げるのは、伝統工芸品の売買プロセスから仲買人や尊大な態度を取りがちな小売業者を排除し、職人と買い手を直接的に結びつけ、それまで極端な高値で販売されてきた伝統的なインド伝統の手工芸品の価格を引き下げることだ。
職人たちの多くは、広大な国土を持つインドの中でも、都市から遠く離れた地域に居住している。新型コロナウイルスによって各地の市場や展示会が閉鎖となり、多くの職人が顧客との接点を失った。しかし、ダイレクト・クリエイトのプラットフォームに登録することによって、職人たちはそこで自分の作品を展示・紹介することができる。また、そこから生まれるコラボレーションを通じて各顧客向けにカスタムデザインの製品を制作することも可能だ。
この新たなオンラインプラットフォームでは、現在、2500名以上の職人たちの作品を取り扱っている。
シーラ氏は、「ダイレクト・クリエイトを通じて、伝統の職人らに数多くの顧客との出会いの機会を提供してきました。顧客たちは職人に直接連絡を取り、自分たちが希望するさまざまな製品をリクエストしています」と語る。
ここでのコラボレーションが、異文化の融合をもたらすこともある。たとえば、ラジャスタン地方に伝わる「カヴァド」と呼ばれる色彩豊かな木製の仕掛け絵本。これは、木箱のような構造の各部を展開させることで絵物語を語り伝える、独特の機能を備えた美術品だ。ドイツでストーリーテラーと教師を務める顧客の依頼を受けて、インドの地元の職人がルーマニア民話をモチーフにしたカヴァドを制作した。
ダイレクト・クリエイト社は、同社のプラットフォーム上での売り上げに対する課金は行っていない。ただし各販売収益の4〜5%は、梱包や配送、ならびに、オンライン支払いの手続きに不慣れな職人向けにオンライン支払いの窓口を提供する費用に充てられる。
パンデミックの初期には、それまで雇っていたすべての職人をやむなく解雇し、制作自体をあきらめていた切り絵職人のソニ氏。しかしいまではダイレクト・クリエイトが、ソニ氏にとってのライフラインだ。同氏は現在、オンラインプラットフォーム上に切り絵作品のリストを掲載している。そしてこれが、コラボレーションのデザインプロジェクトを行う助けになっているという。
インド国内で賞を受賞し、ユネスコからの表彰を受けたこともあるソニ氏は、「ダイレクト・クリエイトの基本思想は、新人アーティストらにとっても非常に助けとなるものです。もちろんそれは収入の手段ですが、人々からの尊敬を勝ち取る手段にもなります」と話す。
ヒンドゥー教の神話を手描きで布に描いたアート「マタニパチェディ(Mata Ni Pachedi)」の専門職人であるサンジェイ・チタラ氏は、パンデミックの渦中にいったん事業停止を余儀なくされた。しかしダイレクト・クリエイトのおかげで、事業の再開が可能になったという。
グジャラート州西部在住のチタラ氏は、「自分の作品をウェブサイトに掲載し始めると、過去に作品を買ってくれた多くの顧客が、私の最近の作品に再び目をとめてくれたのです。気に入った作品を見つけると、直接顧客からこちらに連絡が入るのでとても便利です」と話す。
この新たな取り組みにはもうひとつ、間接的な利点がある。
ダイレクト・クリエイトのシーラ・ルンカッド氏によると、新型コロナウイルスへの感染を避けるために多くの人々がオンラインショッピングに移行した結果、消費者たちは自分が求める製品について過去よりも積極的に情報収集を行うようになり、さらには、その製品が持続可能な方法で製作されたか否かについても、より注意を払うようになったという。
シーラ氏は、「過去には大量生産品が市場を席巻していました。ところがパンデミック下のデジタル環境で、家庭のパソコンや電話端末を使って人々がさまざまな製品を目にする機会が増えた結果、いまでは製品を選ぶ消費者側の目も肥えてきました。人々はそこで、アマゾンや類似のサイトを通じて大量生産の工業品を購入することもできます。しかし同時に、少量生産の手工芸品を購入し、フェアトレードを通じて職人の生活を支えるという選択肢もあるのです」と語る。
By RISHABH R. JAIN and RISHI LEKHI Associated Press
Translated by Conyac