アマゾン、従業員にTikTok削除を指示 数時間後に撤回
アマゾンは、従業員に人気の高い動画投稿アプリ「ティックトック(TikTok)」を携帯端末から削除するよう指示した社内メールを送信してから約5時間後、「メールは誤送信だった」と述べて撤回した。
7月10日午後5時前(アメリカ東部時間)、アマゾンは電子メールで記者団に対し、「午前中、一部の従業員に誤って送信された」としたうえで「ティックトックに関する当社の規定に変更はない」と述べている。
同社広報担当のジェイシー・アンダーソン氏は、紛らわしい撤回にいたった理由や誤送信の原因についての質問には回答しなかった。
すでにネット上で拡散されている最初の社内メールでは、若者の間で人気が高まっている一方で、中国企業が所有しているという理由で安全保障と地政学上の問題が懸念されている動画アプリ「ティックトック」を端末から削除するよう、社員に求めていた。アプリには「セキュリティ上のリスク」があると書かれていた。
実名での発言は認められていないが最初のメールを受信した社員によると、会社が撤回した際に公式な発表はなかったという。
アマゾンの従業員数は、アメリカ民間企業のなかでは最も多いウォルマートに次ぐ。ほかの企業が反ティックトックの流れに乗ると、このアプリへの圧力が高まることになりかねない。アメリカ軍ではすでに、兵士の携帯電話でのティックトック使用を禁じているほか、同社が過去に行った買収に対して安全保障上の調査が行われている。
ポンペオ国務長官が先週、「政府は同アプリの禁止を確かに検討している」と述べたところ、ティックトックユーザーからは混乱や苛立ちを表現する内容、さらにはジョークまでもが投稿された。
中国のネット企業バイトダンスは、国外ユーザー向けに設計されたティックトックを所有しているほか、国内版アプリ「抖音(douyin)」も製作している。ユーチューブと同じように、アプリの人気につながる動画はユーザーに依存している。若者の間では「面白おかしい動画」と評判で、アメリカ人のファンも多い。
だがアプリに批判的な人々は、ティックトックによる中国政府を批判する動画の検閲、中国当局とのユーザーデータ共有、子供のプライバシー侵害といった懸念を表明している。ティックトックは「中国にとって神経質な話題かどうか」を基準として動画の検閲はしていないほか、中国政府から要請を受けてもアメリカ人ユーザーのデータへのアクセスを許可することはないとしている。
また、ティックトックは、7月10日正午頃(アメリカ東部時間)にアマゾンが最初の社内メールを送信する前の段階で、同社に連絡はなかったとしている。メールには、「アマゾンのメールシステムにアクセスする携帯端末で、ティックトックを使用することを認めない」と書かれており、会社のメールシステムから遮断されないようにするには、当日中にティックトックアプリを削除するよう求めていた。
ティックトックはその時点で「アマゾンの懸念が何かは不明」としつつ「問題に対処するための話し合いには喜んで応じる」とした。10日夕方時点では、ティックトックの広報担当者はそれ以上のコメントは控えた。
ティックトックはアメリカでの批判をなだめ、中国というルーツから距離を置こうとしてきたが、ますます硬直化しつつある地政学上の網にとらわれてしまった。
同社は最近、ディズニー元幹部のケビン・メイヤー氏を新CEOに指名した。この人選によりアメリカの規制当局とうまく渡り合えるようになると専門家はみている。また、香港で新たな国家安全法が施行されたことで、この地域でのティックトックの運営を停止した。同じくフェイスブック、グーグル、ツイッターもユーザーデータの香港当局への提供を中断している。
ポンペオ長官は「アメリカ政府はいまでもティックトックに対する懸念を抱いている」と述べているほか、中国の通信機器大手、ファーウェイとZTEに対する政権の制裁措置にも言及した。アメリカは同盟国に対してファーウェイを通信ネットワークから排除するよう呼びかけたが、成果はまちまちである。トランプ大統領もファーウェイを貿易交渉の有利な材料として利用する意向を明らかにしている。ファーウェイは、「中国政府によるスパイ活動は不可能」としている。
アメリカの国家安全保障機関は、バイトダンスが実施したティックトックの前身企業、ミュージカリーの買収に関する調査を進めている。一方、プライバシー保護団体は、連邦取引委員会が2019年、保護者の同意なしに子供の個人情報を収集したとしてティックトックに罰金を科してからも、同社による子供のプライバシー侵害が続いていると主張している。こうした懸念はアメリカだけにとどまらない。中国との緊張が高まるインドでは今月、プライバシー上の懸念があるとしてティックトックを含む複数の中国アプリの使用を禁じる決定が下された。
データガバナンスと国家安全保障の専門家でもあるジョージ・ワシントン大学のスーザン・アリエル・アーロンソン教授は、「アメリカ政府が『中国は定期的にアメリカの知的財産を窃取している』と発言していることもあり、アマゾンは中国企業保有のアプリが自社従業員のデータにアクセスすることを懸念したのではないか」と述べている。
同教授はさらに、撤回されるにいたったアプリ使用禁止の措置について、「アマゾンには『トランプ政権とこれ以上距離を置きたくない』という動機があったことも一部関係しているのではないか」とコメントしている。
シアトル本拠のアマゾンとその設立者ジェフ・ベゾス氏は、これまでたびたびトランプ大統領の標的にされてきた。ベゾス氏は個人的にワシントン・ポスト紙を所有しているが、トランプ氏は同紙を「フェイクニュース」と呼んでいる。アマゾンは昨年、トランプ氏による同社、ベゾス氏、ワシントン・ポスト紙への「個人攻撃」によって、国防総省との100億ドル規模のクラウドコンピューティング契約をめぐりマイクロソフトに競り負けたとして、アメリカ政府を提訴した。一方、連邦規制当局や議会では、アマゾンそのほかの大手テック企業を対象とする反トラスト法の調査を進めている。
By TALI ARBEL AP Technology Writer
Translated by Conyac