アマゾン、自動運転のズークス買収 配送車開発も視野か
アマゾンは6月26日、自動運転技術を手がけるズークス(Zoox)を買収すると発表した。6年前にカリフォルニア州フォスター市で設立されたズークスは、ユーザーが携帯電話を使って呼び出す配車サービス用の自動運転車を開発している企業だ。
シアトルを本拠とするアマゾンは、ズークスの買収金額を明らかにしていない。複数のアナリストによると10億ドル超とみられている。
ズークスは今後も独立した企業として運営され、独自の自動運転車を開発していくことになるとアマゾンは説明している。 同社のリテール事業を統括するジェフ・ウィルケ氏は、「有能なズークス・チームの会社ビジョン実現に協力できることを嬉しく思っている」と述べている。
今回の買収により、アマゾンは「人を運ぶ」というこれまでにないビジネスに進出することになる。だが業界アナリストのなかには、通販顧客に荷物を配達するという同社の中核事業にズークスの車両を転用するのが最終目標だと考えている人もいる。
自動運転車の開発動向を追跡調査しているガイドハウス・インサイツの主席アナリスト、サム・アビュエルサミド氏は「アマゾンは近い将来、ズークスのプラットフォームを利用して、既存の配送車の代替や補完の手段とすることに関心を持つようになるだろう」と述べている。
同氏によると、ズークスは優れた自律走行システムを備えており、来年には配車サービスへの導入を計画している。さらにズークスは前後の両方向に移動することが可能な独自の車両開発も進めている。両端が前にも後にもなるため、都市部での配送に適している。アマゾンは小型車を移動式ロッカーに改造し、配達地点に出向いてそこで利用者が荷物を受け取れるようにするのだろう。
「自律走行の配送車を目標としているのか」という質問に対しての直接的な回答をアマゾンは避けたが、ズークスは「完全に自律走行する専用車両を開発することで、サービスとしてのモビリティを変革するという会社の使命に向けた取り組みをしていく」と述べている。
同社では、自動運転車の普及にはまだ数年かかり、競争の激しいこの分野には多額の投資が必要になると慎重な構えをみせている。今回の買収により、25年前にオンライン書店として創業してから急速な成長をみせたアマゾンは、グーグルの自動運転技術部門ウェイモ(Waymo)と、ゼネラルモーターズ(General Motors)の自動運転車開発部門クルーズと競合することになる。
自動運転車の導入は、UPSやアメリカ郵政公社(USPS)に依存せず、より多くの荷物を自社配送しようというアマゾンの計画と合致するだろう。アマゾンは近年、貨物機の補充、空港での仕分けハブの建設、会社ロゴのついた車両での荷物配送で起業するプログラムの開始などの取り組みを進めてきた。
今回の投資は、2019年に実施した電気自動車スタートアップ、リビアン(Rivian)への7億ドルの出資を補完するものである。デトロイト郊外とカリフォルニアで事業を展開しているリビアンは、アマゾンに10万台の電気自動車を納入する契約を交わしている。さらにイリノイ州ノーマルの工場には、アマゾン向けのズークス車の生産が可能な拡張施設も備えていると、アビュエルサミド氏は述べている。
アマゾンのズークス買収により資金力のある競合が参入することになるため、自動運転車業界の市場環境が変化すると同氏は言う。また、配達用車両の中小メーカーへの圧力はさらに高まるとしている。
アマゾンが自動運転に参入するのは、ズークス買収が初めてではない。2019年初頭、ほかの投資家とともにオーロラ・イノベーション(Aurora Innovation)に5億3000万ドルを出資した。オーロラは最近、大型トラック用の自動運転システムに特化している。
アマゾンはこれまで、自動運転ロボットによる倉庫近辺での荷捌き、6輪走行のクーラーサイズ型ロボットによるシアトル郊外での注文品配送など、自動化技術を活用して顧客に荷物を届けてきた。荷物を宅配する自動操縦ドローンにも取り組んでいる。
今回の買収は、アメリカの政治家や反トラスト規制当局が、アマゾンのほかグーグル、フェイスブック、アップルなど技術系巨大企業の監視を強化している時期に発表された。ウイルスの世界的流行で疲弊した経済の下、スタートアップにとって事業継続のための資金調達はますます困難になっている。しかし一方で、いまだ業界で繁栄を謳歌している巨大企業にとっては格安で買収できる機会が生まれている。
スタートアップへの投資を追跡調査しているクランチベースによると、非公開企業のズークスは投資家から9億9000万ドルの資金を調達している。
By JOSEPH PISANI and TOM KRISHER AP Business Writers
Translated by Conyac