リモートワーク導入を進める巨大テック企業たち 他社に先駆け
新型コロナ収束後の世界に向けて、最大手テック企業はどのような対策を講じているのか。オフィス勤務の将来を予見すべく、その動向に注目したい。
シリコンバレーやシアトルを拠点とする、フェイスブックやマイクロソフト、アップル、ツイッターなどの巨大企業は、新型ウイルスがアメリカ国内で拡大するにつれ、いち早く従業員を自宅にとどめた。そしていま、オフィス再開に向けてどこよりも長く時間をかけている。永久にリモートワークを続ける従業員もいるのだろう。
企業は、給与も能力も高い従業員の要望を吟味したり、リモートワーク環境を整えるために自社の技術を駆使したり、また、拠点のある大都市以外での新規雇用を検討したりと、試行錯誤を重ねている。アマゾンやグーグルなどのテック企業は、流行の最先端を行くサンフランシスコやニューヨークなどの都市部に拠点を展開することで、希少な技術者人材を追い求めてきた。こうした企業にとっては、大きな転換期が数年後に訪れる可能性がある。
このような変化は、創造力を必要とする仕事に対するイメージ——まるで大学を彷彿とさせるようなコーポレートキャンパスの中で、無料の食事が提供され、卓球台が置かれ、そして意図せず生まれる交流を促すようなオープン設計型オフィスが整備された環境が求められている——といった考えが覆されることにもつながるだろう。
その結果として企業は、採用拠点をシリコンバレーのみでなく、アトランタやダラス、デンバーなどの都市も視野に入れることができる。フェイスブックはこれらの都市に新たな「拠点」を開設し、おもにリモートワークを前提とした新規雇用を行う予定である。
とはいえ、変化は早急に訪れるわけではない。フェイスブックが5月21日に開催した対話集会では、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が従業員に対し「慎重に歩を進めていくことを明確にしたい」と伝え、その様子は同氏のフェイスブック上で生配信された。
およそ4万5,000人の従業員を抱えるフェイスブックは、多くの従業員に在宅勤務を強いる新型コロナウイルスの脅威が去っても、5~10年かけてリモートワークをよりいっそう導入していく予定だ。新型ウイルスが仕事や勤務形態に与えた影響は甚大であり、経営資源が乏しく意思決定の遅い企業ですらこの流れに準ずると思われる。
「従業員は在宅勤務においてオフィスと同等、もしくはそれ以上の生産性で仕事を行うことができるということを、多くの企業が学びました」と、人材派遣会社チャレンジャー・グレイ・クリスマスの副社長アンディ・チャレンジャー氏は述べている。
フェイスブックが行った意識調査では、新型ウイルス対策のための制限が解除された後に完全なリモートワークへ移行することについて、従業員の約20%が「きわめてもしくは非常に関心がある」と答え、同じく20%が「多少は」関心があると答えたと、ザッカーバーグ氏は公表している。最も多かった回答は、リモートワークとオフィス勤務の両方を柔軟に選択できるというものである。最終的には、全従業員の半数がリモートワークを行うことになるかもしれないと、同氏は述べている。ただし、それは数年から10年先の話になると、念を押した。
さらに先を行くのがツイッターである。従業員によっては永久に在宅勤務を認めるとの方針が先週、発表された。これは、CEOのジャック・ドーシー氏が新型コロナウイルス流行前に描いていた構想である。ドーシー氏が経営する別会社のスクエアも、ツイッターと同様にサンフランシスコを拠点としているが、対応は同じである。アメリカ国内で公開されているツイッターへの新規求人案件のなかには、勤務地をサンフランシスコやニューヨーク、ワシントンD.C.などの都市部とするか、国内のどこからでもリモートワークを常勤とするかの選択肢が設けられている。
リモートワークを選択肢に含めることで、サンフランシスコやシリコンバレーから高賃金の技術者が一斉に転出することになるのか——それを見極めるのは、時期尚早である。両都市の家賃や住宅費は、このような技術者によって高騰してきた。一方で、フェイスブックによる従業員意識調査によると、少なくともある程度の従業員が、選択肢が与えられればサンフランシスコ・ベイエリアから引き上げると回答していることが示されている。
遠く離れた友人や同僚とのコミュニケーションツールを基盤として帝国を築いた企業にとって、リモートワークへの流れは受け入れ難いものではないものの、課題は多い。共同作業や自発性、突発的な用件で行う対面での打ち合わせなど、自宅にこもって仕事をする場合は、いずれにも大きな変化が伴う。
リモートワークでは対応できない仕事もある。たとえばフェイスブックの場合、自殺や児童虐待、精神的ショックを与える内容を含むコンテンツの検閲は最も困難であり、リモートでの作業はできない。それ以外にも、営業や、データセンターの作成や改良、保守、また裁判を抱える弁護士などもリモートワークの対象から外れる。
新卒者や未経験者など採用したばかりの従業員や、勤務評価の芳しくない従業員もまた、リモートワークの対象外になるだろうと、ザッカーバーグ氏は述べる。フェイスブックでは、永久的にリモートワークを希望する従業員には一定の基準を満たすことを条件付けるつもりであると、同氏は話す。ある一定の勤続年数や高い業績、そして当然ながらリモートワークに対応するチームの一員であることが条件に含まれる。
現時点で、フェイスブック、グーグル、ツイッターなどの企業で働く従業員は、2020年いっぱいはリモートワークが可能である。マイクロソフトの従業員は、10月まで在宅勤務が可能だ。このソフトウェア巨大企業が行ってきた広範な取り組みは、同社の在宅勤務への順応性にうまく適合している。マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏は「すべてをリモート」に移行するための「作戦」に出資を行うとしている。
「製造から販売、そしてカスタマーサービスまでのすべてをリモート操作できる能力が、あらゆる組織においてますます必要になるでしょう」と、今週開催された開発者会議「Microsoft Build」でナデラ氏は述べている。
同社の最高技術責任者であるケビン・スコット氏はすでにこれまで、仕事の多くを自宅で行ってきた。理由の一つに、首脳部にいるメンバーの大半はワシントン州レドモンドにいる一方で、スコット氏はシリコンバレーを拠点にしているという背景がある。
同氏はマイクロソフトについてのみでなく、一般的な職場環境に触れて次のように述べている。「私たちは皆、このスピード感の増すタイムライン上で、自宅で仕事をする方法を画策しています。それはビデオ会議を通して同僚と交流することや、離れた場所で仕事に取り組むことについての行動様式やリズムを学ぶ、といったことなどです。そして、これらは非常に早く改善されてきています。今後、私は以前ほど頻繁には通勤しないだろうと思っているほどです」
By BARBARA ORTUTAY AP Technology Writer
Translated by Mana Ishizuki