衣料品レンタルに挑む米小売業者 成功の可能性は?
衣料品レンタルはファッション業界の将来像となり得るのか、それとも一時的な流行で終わるのか。
いまとなっては、従来からの小売業者がその答えを静観して待つ余裕はない。衣料品を購入する代わりに月額でレンタルするサービスが増え続けている。ブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)、バナナリパブリック(Banana Republic)、アーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)は最近サービスを開始した3社である。靴小売チェーンのデザイナーブランド(Designer Brands)も、靴のレンタルサービスを検討していると話す。
調査会社グローバルデータによると、成長の著しい衣料品レンタル業界は現在10億ドル規模の市場であるが、2023年には25億ドルに達すると見込まれている。リセール(再販)ビジネスと合算すると、全米のアパレル市場規模3,600億ドルのうち、今後10年以内に現時点の7.3%から13%にまで拡大すると予想される。
シェアリングエコノミーが生み出すサービスの一つとして衣料品レンタルがある。このサービスは、物を所有することや大きな買い物にあまり関心はなくても、多様なブランドやサービスを利用したいと考える20~30代の顧客層を中心に支持されていると、PwC社で消費者動向を専門とするスティーブ・バー氏は述べる。
「もはや、継続的な消費という神話に賛同する必要はありません。何かを所有することに誇りを持つのではなく、身に着けることに誇りがあるということです」と、レント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)のCEO兼創業者ジェニファー・ハイマン氏は話す。2009年に設立された同社は、いまや多くの小売業者が追随を試みるビジネスモデルの先駆けである。
大幅値下げを余儀なくされる売れ残り商品の山を目の前にするとき、レンタルサービスは小売業者にとって希望の光となる。すでに中古衣料販売に参入している企業も数社ある。
ザ・リアルリアル(The Real Real)やスレッドアップ(ThredUp)などの企業により人気を集めたサービスであり、同様にシェアリングエコノミーから誕生した事業である。
たとえば、J.C.ペニー(J.C.Penney)やメイシーズ(Macy’s)はスレッドアップ社と提携し、傷みの少ない衣料品を数十店舗において販売している。ノードストローム(Nordstrom)は、マンハッタンにあるウィメンズ向け旗艦店とウェブサイトにおいて、リセールサービスを試験的に行っている。
小売業の繁栄に陰りが見られる状況において、この流れを必然であると考えるアパレル企業は多い。調査会社リテール・メトリックスによると、百貨店を含む衣料品小売業の第4四半期の利益は、小売業界全体が5.7%の減少であるのに対し、11.3%減となる見通しだ。また、2019年の小売業倒産件数において衣料品業界が占める割合は桁外れに大きい、とコンサルティング会社アリックス・パートナーズは説明する。
「衣料品小売業者はあらゆる分野においてプレッシャーと対峙している。激しい販売促進キャンペーン、長期的な売上の低迷、eコマース(電子商取引)への投資が一例だ。そしていま、レンタルサービスやリセールビジネスも同様にのしかかっている。レンタルサービスの市場規模は小さいものの、今後の成長は見込まれている。小売業者は投資する必要がある」と、リテール・メトリックス社社長のケン・パーキンス氏は述べる。
小売業者の在庫、出荷管理を担うスタートアップ企業、カースル社CEO兼創業者クリスティン・ハンシッカー氏によると、レンタルサービスによる営業利益は20~25%程度が見込まれるが、従来の小売業では5%に過ぎないという。2019年にカースル社の個人客が衣料品レンタルと購入に支払った金額は、平均して一人当たり2倍に増加している。
しかし、高級なデザイナーズブランド衣料品に特化したレンタルサービスを提供するレント・ザ・ランウェイとは異なり、日常的な商取引に加え、マーケティングからドライクリーニングサービス、出荷業務までも行っている従来の小売業者にとって、財政状況は大きな課題となる。
バナナリパブリックやブルーミングデールズなどの小売業者10数社は、出荷管理をカースル社に委ねている。一方で、自社ブランドのみでなくリーボック(Reebok)やリーバイス(Levi’s)など他社のブランドのレンタルサービスも提供するアーバンアウトフィッターズは、決して簡単ではないこのような業務もすべて自社でまかなっている。
「小売業者はサービスの提供よりも、商品の販売に非常に長けています。ですので、どのお客様とどの程度の頻度で連絡を取り合うかについて理解するのは簡単ではないのです」と、ハンシッカー氏は話す。
低価格衣料品チェーンがレンタルビジネスに参入することが道理にかなうのか、疑問を呈する専門家もいる。利用者は中古衣料を購入することもでき、大幅な割引価格で手に入れることも可能なのだ。さらに、何度か着用すると衣服がくたびれてしまう可能性もあるとデロイト社のロッド・サイズ氏は指摘する。
インディアナポリスに住むエリザベス・カシン氏(53)は先月、アーバンアウトフィッターズのレンタルサービス「ニューリー(Nuuly)」を利用したと話す。注文した6アイテムは届かなかったが、いずれにしても料金は請求されたという。ソーシャルメディアを介して顧客サービスへ連絡した後に、新たなアイテムを受け取ることはできたが、衣服は清潔でなかったと話す。
「リサイクルショップに行く方が、良いものを得られます」とカシン氏は言う。
アーバンアウトフィッターズは、「ニューリーの利用者にとってより良いサービスを提供できる」よう、顧客からの反響には常に耳を傾けていると話す。このままのペースで行けば、最初の1年間で利用者数が5万人に達する見込みだという。
レント・ザ・ランウェイを悩ませ続ける問題には、小売業者も同様に頭を抱えている。一貫性のない顧客サービスと、あらゆる名目で追加される料金システムについて、顧客からの不満が寄せられている。一例を挙げると、レント・ザ・ランウェイの場合、商品の返却が遅れている顧客に対し、1日当たり50ドルの延滞金を課しており、その上限を「商品の小売価格の2倍」と設定している。
また、レンタル商品を返却できる場所があまりにも少ないという課題もある。小売業者は主要都市にある店舗での受け渡しを可能にするべきだが、現時点で対応している店舗はほとんどなく、利用客は衣料品をUPS(貨物運送業者)か郵便局へ持ち込む必要があると、小売業界の専門家であるメリッサ・ゴンザレス氏は話す。レント・ザ・ランウェイの店舗数は5ヶ所、受け渡し拠点は50ヶ所近くに上る。
レント・ザ・ランウェイ自体、ますます高まる顧客からの要求に対応する必要がある。特別な日のための衣装レンタルに端を発する事業であるが、現在の年間一人当たりのレンタル平均日数は120日以上である。ニューヨークに拠点を置く同社は、2019年に子供服の提供を開始し、その後、家具インテリア小売業のウエストエルム(West Elm)と提携し、寝具類やその他インテリア商品の提供を始めると発表した。
マンハッタンに住む保険ブローカーのヴァラ・ピコー氏(26)は、衣服が必要な場合は大抵レント・ザ・ランウェイを利用しており、病みつきになっていると言う。
「この習慣からは永遠に抜け出せないかもしれません。家には最小限のものしかありません」と話す。
レント・ザ・ランウェイの長期的な見通しは定かでない。株式公開を予定しているというものの明確な時期は示されていない。2016年には高収益であったと発表されたが、その後今日に至るまでその状況が継続されているかについて、広報担当者からのコメントは得られなかった。
それでもなお、小売業者はレント・ザ・ランウェイの後を追い、より良い状況に落ち着くことを望んでいる。
By ANNE D’INNOCENZIO AP Retail Writer
Translated by Mana Ishizuki