「野蛮」の名の香水、CMに米先住民起用で物議 ディオール
1960年代半ばに誕生し、ソヴァージュ(Sauvage)という商品名で販売されてきたディオールの香水は、近年、俳優ジョニー・デップを広告塔に起用している。しかし、ネイティブ・アメリカンのイメージを取り入れた新しい広告キャンペーンは、野蛮だとみなされ、当たり前のように殺害された祖先をもつ人々に対し、その傷をさらに深めることになった。
フランスの高級ブランド企業が8月30日に投稿した予告編には、現代のネイティブ・アメリカンの文化を具象化した色鮮やかな衣装を身につけたラコタ族のダンサーが出演し、新商品の詳細情報については9月2日に発表があると告げた。映像は数時間後、ディオール公式のインスタグラムやツイッターから削除されたものの、ジョニー・デップに関連するいくつかのアカウント上には依然として掲載されていた。
予告編や映像に対する激しい批判は続いた。フランス語で「ソヴァージュ(Sauvage)」は、「荒っぽい」、「未開の」また「野蛮な」など、さまざまな意味を持つ。
「その言葉によって、無知や人種差別主義の度合いはまったく別のものになるのです。言葉が持つ意味について十分に理解するべきです」と、ミネソタ州ローワー・スー・インディアン居留地に住むダラス・ゴールドトゥース氏は述べる。
ディオールは、ネイティブ・アメリカンのコンサルティング団体「Americans for Indian Opportunity(インディアンが機会を得られることを目指すアメリカ人の会)」を起用してキャンペーンの制作を行った。ニューメキシコ州アルバカーキに拠点を置く同団体は、評判はよいが、論争を招くことも何度かある。2013年に公開された映画「ローン・レンジャー(The Lone Ranger)」の撮影中であったジョニー・デップを、コマンチェ居留地の名誉メンバーとして迎え入れたのも同団体である。
ローラ・ハリス事務局長は、人々からの反感は予想していたと話す。一方で、ネイティブ・アメリカンは作品にとって不可欠な要素であり、人々に固有の価値や哲学を伝えるものであること。その上、礼儀と敬意をもって撮影が行われたことを明確に伝えたいと述べる。
「まさにソーシャルメディア上で行われているような議論が行われ、人々の関心を高めることができればと願っています」と、ハリス氏はAP通信に話している。
ハリス氏はさらに、ディオールが香水の名前を変更したり、コマーシャルを中止したりすることはないだろうと話す。ユタ州南部で撮影された映像はジョニー・デップが主演を務め、「We Are the Land (私たちが大地です)」と呼びかけている。マーケティング資料によると、映像は「母なる大地に寄せる歌」を表現するものであり、この文化に対する力強い賛辞と心からの敬意を描写するためにダンサーを組み込んだと説明している。
ディオールも、広告塔であるジョニー・デップも、またサウスダコタ州ローズバッド居留地に住むダンサーのチャンク・ワンスター氏も、コメントには応じていない。
同じ週のはじめ、ディオールは「ソヴァージュ」新作キャンペーンの予告編と、議論を呼んだものとは別の映像を投稿していたが、反発を受けることはなかった。
ネイティブ・アメリカン支援団体「イルミ・ネイティブ」のクリスタル・エコーホーク代表は、ディオールがネイティブ・アメリカンのコンサルティング団体を起用して制作したことは正しかったと話す。しかし、香水と先住民のイメージをつなげる際に知っておくべきことがあったという。
「善意のコラボレーションが、うかつにも搾取的で人種差別的なものになり得ることがあるのです。そして、それがいま、実際にここで起きているのでしょう。大切な教訓を得たと思います。ディオールは全国的なキャンペーンを成功させなければいけません」と、ポーニー族であるエコーホーク氏は述べる。
ニューヨークに拠点を置く顧客調査会社ブランド・キーズのロバート・パシコフ代表取締役は、少数民族の団体を起用するだけでは十分ではないと話す。さらに、文化的側面を所有物化し、利益のために少数民族を利用する企業には弁解の余地はないと話す。
「道徳的に正しいこと、文化的に間違っていないこと、そして少なくとも人種の側面でバランスが取れていること。最近はこのようなことに、きわめて細心の注意を払う必要があるのです」と、パシコフ氏は述べる。
By FELICIA FONSECA Associated Press
Translated by Mana Ishizuki
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