人工肉の米ビヨンド・ミートが上場、初日株価は2倍以上に 260億円を調達
投資家の大好物、それはフェイクミート(人工肉)だ 。
植物由来のバーガーパティやソーセージを開発製造するビヨンド・ミートが2日、米ニューヨークのナスダック市場に新規上場し、新規株式公開(IPO)株価が2倍以上に高騰した。IPOの調査を行うルネッサンスキャピタルによると、同社はヴィーガン“肉”専門の製造業者として初の株式公開企業となる。
ビヨンド・ミートはIPO株価を25ドルに設定。960万株を販売し、2億4,000万ドル(約264億円)を調達した。初日の終値は163%高の65ドル75セントとなった。
設立10年目のビヨンド・ミートには、マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏や俳優のレオナルド・ディカプリオ氏などの著名人が出資しており、カールスジュニアをはじめ、同社の製品を取り扱うハンバーガー店が拡大している。米国内だけでなく、カナダ、イタリア、イギリス、イスラエルの3万におよぶスーパーマーケット、レストラン、学校に販売している。
CEOのイーサン・ブラウン氏はAP通信の取材に対し、海外展開を目論むビヨンド・ミートにとってIPOのタイミングは適切で、同社の成長を後押しした消費者に株を購入してもらいたいと語っている。
「このブランドを支えてくれた人々を迎え入れることができるのは、本当にうれしいことです」。
しかし、同社の昨年の純損失額は約3,000万ドルとなり、いまだ年間利益が出ていない。また、インポッシブル・フーズなどの”新しい肉”の製造業者やタイソン・フーズなどの伝統的なプレイヤーとの熾烈な競争に直面している。タイソンは先ごろ、自社で代用肉の開発計画があるとしてビヨンド・ミートの株式を売却した。
健康面と環境面でのメリットが見込まれる植物由来食品への消費者の関心が高まるなかでの、今回のIPOとなった。市場調査会社ニールセンによると、米国内における植物由来肉の売上高は、2016年3月から2019年3月までの3年間で42%上昇し、計8億8,800万ドルとなった。同期間に従来の肉の売上高は1%上昇し、850億ドルとなった。
この傾向は世界的なものだ。イギリス国内における代用肉の売上高が昨年1年間で18%上昇した一方、従来の肉の売上高は2%減少した。
需要は拡大を続ける見込みで、コンサルティング会社のユーロモニターによると、代用肉の全世界売上高は2023年までに22%上昇し、計229億ドルに達する見込みだという。
バーガーキングまでもがその魅力を認めている。4月1日からセントルイスの店舗で試験的に販売していた、インポッシブル・フーズの植物由来パティを使用したインポッシブル・ワッパー(Impossible Whopper)のヒットを受け、同社は今週はじめ、販売地域の拡大を発表した。また、植物由来のスウェーデン風ミートボールを開発中のイケアは、来年はじめに消費者試験を実施する予定だという。
遺伝子組み換えされていない自然原料のみを使用し、大豆を使用しないビヨンド・ミートの成分一覧表は、競合他社と一線を画しているとブラウン氏は語る。同社の製品は、エンドウ豆プロテイン、キャノーラ油、片栗粉ほかの植物由来原料を使用している。パティからはビーツ果汁でできた肉汁が流れ、ソーセージは果汁で着色されている。
競合他社とは異なり、ビヨンド・ミートの製品は2016年からスーパーマーケットの精肉コーナーでも販売されており、ベジタリアンにもアピールしている。同社が昨春26週にわたり実施した調査によると、スーパーマーケットチェーンのクローガーで同社のパティを購入した消費者の93%が、同時期に精肉を購入している。つまり、従来の肉を買いに来た客の9割以上がビヨンド・ミートのパティを購入したことになる。
2016年に試食が行われた際、コンシューマー・レポート誌は、ビヨンド・バーガー(パティ) の食感は牛挽肉に似ているが風味に劣ると評し、「今まで食べたなかで最高のパティではないが、バンズにのせてトッピングを山盛りにすればとてもおいしい」と結論づけた。
健康面でのメリットは半々だ。4オンスのパティで比較すると、ローラズ・リーン・ビーフの92%牛挽肉パティはビヨンド・ミートのパティより脂肪分とコレステロールが多いが、ビヨンド・ミートのパティは塩分と炭水化物が多く、タンパク質がやや少ない。ローラズ・リーン・ビーフのパティは160カロリーで、ビヨンド・ミートのパティは270カロリーだ。
ビヨンド・ミートでは、製造工程で自然に生じる塩分の削減に取り組んでいると話すブラウン氏は話す。一方で、赤肉と加工肉は世界保健機関(WHO)によって「おそらく発がん性がある」とされている。
また、ビヨンド・ミートは少々値が張る。5ドル99セントでビヨンド・ミートの4オンスパティが2枚買えるが、ローラズ・リーン・ビーフなら同じサイズのパティが4枚買える。
ビヨンド・ミートは、5年後に少なくとも一つの製品(おそらくビーフ)を動物性のものより低価格で提供することを目指している、とブラウン氏は明かす。販売の拡大に伴いサプライチェーンが成長し、エンドウ豆などの原料のコストが下がると同氏は予測している。
しかし、ビヨンド・ミートは同時に環境面でのメリットを謳っている。ビーフパティと比較して、植物由来のパティの生産において必要な水は99%、土地は93%少なく、排出される温室効果ガスを90%削減できると同社は説明している。
ビヨンド・ミートは、某再生可能エネルギー企業の重役だったブラウン氏が2009年に設立した。実家がメリーランドの酪農場を共同所有しており、幼少期の週末と夏をその農場で過ごしたブラウン氏は次第に、肉を生産するために本当に動物が必要なのかと疑問を持つようになった。
1980年代から大豆由来のチキンを開発していたミズーリ大学のフーハン・シェ教授とハロルド・ハフ教授とタッグを組み、2013年には、植物由来のチキンストリップを全米各地のホールフーズ・マーケットで販売した(ビヨンド・ミートは昨年はじめチキンの製造を中止したが、レシピの改良中だと説明している)。
投資家にとって、ビヨンド・ミートの株式にリスクがないというわけではない。カリフォルニア州エル・セグンドにある3万平方フィートの本社研究所に計63人の科学者、エンジニア、研究者、技術者、シェフを擁する同社は、ミズーリ州コロンビアにも製造施設を所有している。年間利益が出ていない状況だが、引き続き研究開発に巨額の費用を投じる必要がある。
ビヨンド・ミートを調査したルネッサンスキャピタルは、業績が急成長しているので、投資家は損失に目をつぶるだろうと予測している。2018年の純売上高は、2017年の2.7倍にあたる8,790万ドルだった。
証券取引委員会に提出されたIPO申請書によると、4,000万~5,000万ドルが既存および新規の製造施設への投資に、5,000万~6,000万ドルが製品の開発と販売に充てられる。残金は債務の返済と資金の運用に充てられる。
By DAKE KANG Associated Press
Translated by Naoko Nozawa