深刻化するアメリカの教師不足 フィリピンなど外国人の採用進むも賛否

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◆改善策に様々な立場
 外国人教師の増加に、反応は様々だ。ガーディアン紙によると、アリゾナ州教育協会の会長は、人手不足解消のための「クリエイティブな方法」だと胸を張る。一方、薄給を理由に退職した一人の元教師は、フィリピン人教師の採用で国内の雇用が奪われると警戒する。アリゾナ州はトランプ氏に票を投じた住民が多い地域であり、外国人への排他的意識が比較的強い。

 ただし同紙は、国境の壁の建設に賛成するトランプ派の住民のなかにも、フィリピン人の採用施策を大いに歓迎する意見がある、としている。海外から渡米した教師たちは、教育を通じてアメリカに貢献していると捉えられているためだ。仮に外国人の登用を行わない場合、給与水準の引き上げによってアメリカ人教師の離職を食い止める方策もあるが、その施策にこそ住民の反感は強い。ある老人は、街の貧困を鑑みれば、給与の増加はあってはならないことだと憤る。

 将来的には教職を志すアメリカの大卒者が増えれば良いのだが、現実的に難しいとの意見をCBSは紹介している。教育関係のあるシンクタンクのCEOは、学資ローンの残高に見合った職業が選ばれる傾向にあると指摘。ローンを返済できず、家族を養うこともできない教職は敬遠されているという。

◆教師の視線
 崩壊が進む教育現場について住民が様々な意見を寄せるなか、現職の教師たちは生徒からの信頼に応えるためにギリギリの生活を送っている。ガーディアン紙は、14年間カーサ・グランデの高校で教えているアメリカ人教師のモーリス氏の事例を挙げる。生徒たちに必要とされているという信念を持つモーリス氏は、経済的困窮から数年前に自宅を手放してなお、教育の現場を離れようとしない。掛け持ちで4教科を担当するにもかかわらず、氏の年収はアメリカの平均的な高校教師の収入を下回る。

 CBSによると、教職からの離脱者数は過去3年間連続で増加している。現場に残された職員の負担は増すばかりだ。前掲のシンクタンクCEOは、貧困地区の教師の状況は一層深刻だと指摘。豊かな地区の教師よりも多くのストレスに晒され、さらにはポケットマネーで備品を購入することもあるという。

 収入増を夢見て渡米したフィリピン人教師たちの生活も、必ずしも安泰ではない。ガーディアン紙は、フィリピン国内での勤務と比べ、給与がおよそ10倍になるケースもあると紹介する。しかし、就職斡旋と渡航手続きで12万5,000ドル(約1,380万円)ほどが消えるほか、生活費もフィリピンとは異なる。前述のイノジョサ氏は、同僚との相部屋生活をやっと抜け出し、まだ家具もほとんどない部屋で慎ましい生活を送っている。フィリピンでの幼少期を廃材でできた家で過ごした同氏は、カーサ・グランデの惨状の理解者でもある。少しでも空腹の生徒のためになればと、いつも鞄にクッキーを忍ばせることを忘れない。生徒と同僚からの信頼は厚いが、来年にはビザが失効。延長できたとしても2年の追加しか許されず、将来の不安を抱えていると同紙は伝える。アメリカの未来を担う教育の現場で、国内外の教師に負担を強いる綱渡りが続いている。

Text by 青葉やまと