日本企業に熱視線を送るアメリカの州たち 貿易問題もなんのその
ドナルド・トランプ大統領が日本に対して強硬な貿易姿勢を見せる中、アイダホ州は鈴木隆史氏を温かく歓迎した。
バッテリーや半導体の冷却用アルミニウム部品を製造する栄鋳造所の鈴木社長は、ビジネスチャンスを求め、初めてシリコンバレーを訪れた。しかし、思うことは皆同じで、シリコンバレーでの競争は激しかった。
一方、アイダホ州を訪れた鈴木氏は現地の政治家や役人、そしてアイダホ大学から歓迎された。鈴木氏は、彼らとともに汚染水を発生させずに核燃料を冷却する方法を開発したい、と考えていた。これは、2011年の原発事故以来、鈴木氏がずっと関心を寄せていた問題だ。
福島原発の冷却に使われた水は放射性物質に汚染されているため、処分することができず、タンクに保管されているが、その量はすでに100万トンを超えている。新たな冷却技術があれば、冷却水の必要性を低減させることができ、原子炉研究所や原子炉を抱えるアイダホ州にもメリットがある。
トランプ大統領と日本やカナダ、ヨーロッパとの間では鉄鋼の関税引き上げ問題で応酬が続き、ニュースをにぎわせている。そんな中で栄鋳造所などの企業は、アメリカの各州と独自に取引をすすめ、自力で投資や商業の機会を追及している。
アイダホ州東部の地域経済開発局(REDI)でチーフ・エグゼクティブを務めるジャン・ロジャース氏は、「(アイダホは小さな州なので)我々はこういった企業に必要な関心や方向性、そして支援を提供することができる立場にある」と話す。ロジャース氏は先日、9日間の日程で来日している。
ロジャース氏とアイダホ州のケリー・アンソン上院議員、アイダホ大学執行役員のマーク・スキナー氏は八王子を訪れ、日本の企業5社と接見した。7月には、その5社がチャンスを模索するため、アイダホを訪れる予定だ。
日本の企業が韓国など、他の競合に後れをとっているのは、交渉での柔軟性が欠けているからだと鈴木氏は考える。彼は、日本政府の要人の誰に会うよりも、アイダホの議員に会う方がよほど簡単だと話した。
「今の時代、独自の戦略を立てる必要がある」と1952年に祖父が創業した企業を継ぐ鈴木氏は言う。
政府の中小企業基盤整備機構によると、日本企業の99%、そして労働者の70%を中小企業が占めているという。従業員数30名の栄鋳造所もその1つだ。
トランプ大統領は日本に対し、鉄鋼とアルミニウムにそれぞれ25%と10%課税するという輸入制限をかけた。制限措置は5月から発効し、一時的な適用免除が認められたEUやカナダ、メキシコでも、5月末には免除期間が終了している。
日本は世界貿易機関(WTO)に、年間約500億円(約4億5000万ドル)の米国商品に対する報復関税を課す可能性があると通告したが、具体的な対象製品については、まだ言及していない。
5月、トランプ氏は外国製自動車や自動車部品が「国家安全保障上の脅威」と判断できれば、関税引き上げの正当な理由となるとして、調査を開始するよう命じた。日本の主要産業である自動車メーカーは憤っている。
トヨタ自動車は、日本の自動車産業が脅威であることを否定し、業界の多くの企業を擁護した。同社はアメリカで230億ドルもの資金を投資し、雇用を創出し、さらに11番目となる現地工場を建設中だ。
その一方で、日本に熱い視線を送る州もある。
グレートフォールズ・モンタナ開発局の社長兼チーフ・エグゼクティブを務めるブレット・ドニ―氏は今年、投資誘致のため日本を訪れた。
日本製粉は、パスタ・モンタナの主要投資家であり、数百万ドルの製造ラインを追加している。
ドニ―氏のように州レベルで働く人々は、アメリカの農村部に雇用を取り戻す答えは、海外からの直接投資だと考えている。それぞれの投資が生み出す仕事は10数件だとしても、モンタナのような小さなコミュニティにとっては重要だとドニ―氏は言う。
鈴木氏は、栄鋳造所が生き残るためには、日本国外で機会を得るために自らの足を使い、個人的な人脈を作ることが不可欠だと話す。
彼は韓国やフィリピン、ネパールで従業員を雇用している。さらに、八王子の起業家仲間と海外展開について語り、共同での団体旅行を企画している。
アイダホ州に加えて、彼はテキサス州でもビジネスチャンスの可能性を模索している。
By YURI KAGEYAMA, AP Business Writer
Translated by isshi via Conyac