海外出張では注意、ハグがセクハラにも MeTooで再定義されるボーダーライン
#MeTooムーブメントの影響で、欧米ではセクハラについての議論が活発になっている。職場における様々な行動の是非が見直されているが、明確な線引きが難しいものもあり、特にハグに関する議論が増えている。
◆顕在化が進むセクハラ事件と、厳しくなる規定
昨年末、米NBCの看板キャスター、マット・ラウアー氏が複数の女性たちからセクハラの糾弾を受けて解雇された。同ネットワーク一の稼ぎ頭であったラウアー氏のショッキングなスキャンダルを受けて、NBCは新たに社内規定を設けた。
英テレグラフ紙(2017年12月26日付)によると、新しい社内規定は「職場での不適切な関係」を必ず報告するよう社員たちに義務づけているほか、タクシーに同乗してはいけないなど、社員たちの行動規範を細部にまでわたって厳しく定めている。その中の一つにはハグに関する規定もあり、それは「もしも同僚をハグしたいのであれば素早く行い、すぐに一歩離れて体の接触を避けなければならない」というもので、この規定に関しては「馬鹿げている」という意見もある。
著名人によるセクハラが次々と明るみに出て断罪されている中で、セクハラに対する従来の意識を変えざるを得ないのは自然な流れだが、欧米で文化的に許容されてきたハグといった行為は、一概にセクハラだと言い切れないのだろう。
◆ハグの捉え方は個人差が大きい
英BBC(2017年7月20日付)によると、広告・マーケティング業界の経営幹部を対象にしたアンケートで、2011年には3分の1が「職場でのハグは一般的」と回答していたのに対し、2016年の調査では同様の回答が2分の1に増えたそうだ。しかし一方で、2016年にアメリカのファストフード業界を対象にした別の調査では、4分の1が「職場で不適切にハグをされたと感じる」と回答しており、調査結果には大きな開きがある。
また、同記事では「私の職場はハグをする人が多いけれど、ハグをしたくないと公言している人たちもいる」という中立派の意見や、ハグは「結束や信頼を表現する方法で、誰も傷付けていない」といったハグ賛成派の意見も紹介されている。いずれも一般人女性たちの意見だが、個人によって意見が分かれることが伺える。
2015年にこんな出来事があった。「ハギー・ベア」の異名を持つほど男女を問わず頻繁にハグをする事で知られていた米カリフォルニア州上院議員のロバート・ハーツバーグ氏が、元従業員の女性に告発されたのだ。その内容は、嫌がっているのにもかかわらず体を引き寄せられ、オフィスで無理矢理ダンスに付き合わされたといったものだった。この出来事をきっかけにして、他の女性たちからもハーツバーグ氏に対する告発が相次いだ。不快である事を何度伝えても、ベタベタと触りながらハグをしてきたという声や、ハグが長過ぎて苦痛であることを伝えても止めてくれなかったといった声が寄せられた。最終的にハーツバーグ氏は謝罪表明を出すに至った(サンフランシスコ・クロニクル紙、2月25日付)。
ロサンゼルス・タイムズ紙(2月4日付)のマリエル・ガーザ記者は、握手に比べてハグは「絡み方のルールが曖昧」である点を指摘している。握手は手を握ってすぐに離すという認識が一般的に定着しており、誰もがその認識に則って握手をするため、握手とセクハラが関連づけられることは滅多にない。しかし、ハグの場合はどうだろうか。セクシャルな意図はなかったとハーツバーグ氏は主張しているが、仮にそうであったとしても、ガーザ記者は「適切な距離感の侵害になる」としている。この点を考慮してみると、NBCのハグに関する厳しい社内規定も、実は的を射たものなのかもしれない。
◆セクハラかどうかは被害者側が決めること
人事コンサルティング会社、オペレーションズインクに勤めるトレーニングマネージャーで、様々な企業にセクハラセミナーを行ってきたケイティ・トラヴィア氏は、「ハグを繰り返すことは、ハグをする側の意図にかかわらず、歓迎されない場合がある。許容されるタッチは握手のみで、そこで止めるべき。むやみに体を近付けるのも、歓迎されなければハラスメントになる」と話す。同社CEOのデイビッド・ルイス氏によると、セクハラに関する法律は総じて加害者側の意図よりも被害者側の感じ方に重点を置いているのだが、その基本原則に戸惑うセミナー参加者も多いそうだ(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、2月13日付)。
親しみをこめてハグをしたのにセクハラ認定されてしまったとすれば、心外に思うかもしれない。しかし誤解を招きたくなければ、握手に留めておくのが賢明だと言える。ハグにはあまり馴染みが無い日本人も、海外出張や駐在の際には留意する必要がありそうだ。