アップルの新たなフロンティアはヘルスケア市場 すでにiPhoneで布石

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 アップルは2月13日、新社屋「アップル・パーク」で年次株主総会を開催した。同社の業績は好調で、注目されるのは今後の事業計画である。同社CEOティム・クック氏はそこで新たなフロンティアに関する展望を披露した。

◆早くも「次世代」に言及
 ブルームバーグが報じるところによると、株主総会においてティム・クック氏は配当金の増額を約束し、次世代のリーダーを育成する計画の遂行を最優先とする姿勢を強調した。同氏は自らの職務であるCEOのもっとも重要な役割のひとつとして、新しいリーダーに「バトンを渡すこと」がある、と述べた。ちなみに、2011年に故スティーブ・ジョブズ氏から同社CEOを引き継いだ同氏は、現在57歳である。

 総会では同社が提供する決済サービス「Apple Pay」に関する質問もあがった。その質問に対して、同氏は予想よりゆっくりと普及していることを認めつつも、ここ数年は日本やロシア、そして中国で急速に普及している、と答えた。

◆新規参入でも自信たっぷり
 株主総会では同社の新規事業計画についても話された。新規事業計画に関してはCNBCが詳しく報じている。同氏は新しいフロンティアとはヘルスケア市場であることを明言した。そのうえで、ヘルスケア市場への新規参入は難しいと言われているのは承知しているが、アップルが今まで培ってきたユーザーフレンドリーなアプローチを行えば、「すばらしいポジション」を築けるだろう、という展望を披露した。

 同社のヘルスケア市場への参入は、すでに布石が打たれている。同氏によると、アメリカの数十の病院ではiPhoneを使って医療データを収集することがすでに始まっている。医療データを収集するiPhoneの機能はまだベータ版であるものも、この機能をアメリカ全土の病院に導入することに意欲的だ。

 ヘルスケア市場を新しいフロンティアと考えているのは、アップルだけではない。例えばアマゾンは、社員の医療費を削減することを目的とした福利厚生サービスをJPモルガン、バークシャー・ハサウェイと共同で立ち上げた。グーグルの親会社であるアルファベットも、アンチ・エイジング技術を研究しているカリコ、医療用ソフトウェアとハードウェアを開発しているヴェリリーといったヘルスケアのスタートアップを傘下に持つ。大手テック系企業にとって3兆ドル(約320兆円)の規模とされているヘルスケア市場に参入することは魅力的な機会であると考えられている。

◆減税の恩恵はアメリカに
 さらに今年の同社の決算には業績を上方修正させる要因があることを、テック系ニュースメディア『CNET』は伝えている。その要因とは、アメリカ国外の資産をアメリカ本土に戻す場合に課せられる税率を従来より低くする内容を含んだアメリカ税制改革である。昨年12月31日を末日とした2018年度第一四半期時点で同社は2,851億ドル(約30兆円)の現金を保有していて、そのほとんどが海外にある。

 同記事によると、同社は新しい社屋と2万人の雇用のために、自社資産から今後5年間にわたり300億ドル(約3兆2,000億円)を投資する計画がある、とのこと。そして、こうした投資計画に伴って支払う法人税および社員の所得税等を合計すると、アメリカ市場に対して3,500億ドル(37兆円)にのぼる貢献を同社は見込んでいる。

Text by 吉本 幸記