職場の無礼行為はなぜ伝染し、止まらないのか?
著:Trevor Foulk(フロリダ大学 PhD candidate in business administration)
ほとんどの人は、職場の同僚たちから理由もなく無礼な扱いを受けた経験があるだろう。あなただけ会議に呼ばれない。同僚がコーヒーを買ってくる――あなた以外の全員に。あなたが意見を言うと、笑われたり無視されたりする。あなたは不思議に思う。「なぜこんなことになっているのか? 私は何かしたのか? なぜ相手はこんなふうに私を扱うのだ?」と。非常に厄介なことには、それは何の前触れもなく起こる上、多くの場合、なぜそうなったのか全くわからないのだ。
現在進行中の大規模な研究に基づけば、それらの小さな出来事は「職場不作法」あるいは「職場無礼」と呼称され、非常に一般的であるだけでなく、非常に有害でもあるようだ。職場無礼は、何もひとつの業界だけに限ったものではない。異なる文化を持った様々な国々の中の、実に様々な状況の中で、ずっと以前からそれは観察されている。
ほんのちょっとした侮辱、誰かを無視する、人の仕事を自分の手柄にする、あるいは職場内の友好関係から誰かを除外する―― 「あいまいな攻撃意図を持った、強度の低い異常行動」と定義されるこれらの行動は、どうやら職場の至る所にあるらしい。ここでの問題は、その本来意味するところの「強度の低さ」にもかかわらず、職場無礼がもたらす否定的結果は決して小さくもなく些細でもない、ということだ。
無礼は「たいしたことではなく」、ただ単に皆が「乗り越えなければならない」ものだと信じるのは簡単だ。しかし、ますます多くの研究者が、これはまったく真実ではないということを発見し始めている。職場無礼を経験することは、パフォーマンスの低下、創造性の低下、および転職志向の増加に直結する。しかもここに言及したのは、職場無礼がもたらす数多くの否定的結果のごく一部に過ぎないのだ。状況次第では、この否定的結果はきわめて悲惨な形をとる。最近の記事によると、例えば、赤ん坊に治療を行う直前の医療チームが、ちょっとした侮辱を経験した場合、たったそれだけのことがチームの仕事を台無しにし、赤ん坊を死に至らしめる(というシミュレーション結果が出た)。そのような行動がいかに有害かを知ると、次に出てくる疑問は、「では、そういう行動はどこから来るのか? また、人々はなぜそれをするのか?」だ。フォームの終わり
人々が無礼にふるまう理由は、おそらく山ほどあるだろう。私と同僚たちは最近、ひとまずそのうち一つの理由について、深く追究した。その理由とは、「無礼は伝染力を持つ」というもの。つまり、「誰かが人から無礼を経験すると、それが事実上の原因となり、その人自身がそれまでよりも無礼に行動する」という話だ。多くの物が伝染力を持つ。一般的な風邪はもちろん、笑顔、あくび、その他の単純な運動行動、さらには、感情も。(幸せな人の周りにいるとあなたも幸せを感じるのは、わかりやすい例だ。)そして今回判明したように、無礼な人の周りにいると、あなたも無礼になる。だが、いかなる仕組みで?
行動と感情が伝染するには、二つの経路がある。ひとつは、社会学習の意識的プロセスを通してだ。例えばあなたが、最近新しいオフィスに就職し、そこでは誰もが水筒を持ち歩いていることに気付いたとする。その場合、あなたもそれを持ち歩くようになるまでに、それほど長くはかからないだろう。このタイプの伝染は、普通は意識的なものだ。もしも誰かが、「なぜあなたは水筒を持ち歩くのか?」と尋ねたとしよう。あなたはおそらくこう答える。「他のみんながやっているのを見て、良いアイデアに思えたからです。」
もうひとつの伝染経路は無意識的だ。たとえば、誰かが微笑んだり、鉛筆でコツコツ叩いているのを見ると、ほとんどの人がそれらの単純な運動行動を模倣する、という研究結果がある。微笑したり、コツコツ叩いたりしはじめるのだ。もしそこで誰かが、「なぜ笑ってるの? なぜコツコツ叩いてるの?」と、その理由を尋ねたとする。あなたは多分、「わからない」と答えるだろう。
一連の研究で、私と同僚たちは、無意識の自動経路を通して無礼が伝染力を持つという証拠を見つけた。ひとたびあなたが無礼を経験すると、無礼を処理する機能を担う脳の一部が「覚醒」する。あなたは無礼に対して少し敏感になる。これはつまり、あなたは周囲の無礼なほのめかしに対してそれまでよりも敏感になり、どのようにも解釈できるやりとりを、「無礼」と解釈しがちになるということだ。たとえば、 「ねえそれ、素敵な靴ね!」と誰かが言ったとする。普通ならあなたは、それを褒め言葉と解釈するだろう。ところが、あなたが最近、人から無礼を受けていた場合、あなたはその言葉を侮辱と解釈しがちになる。つまりあなたは、あなたの周囲により多くの無礼を「見る」ように――あるいは少なくとも、「見たと感じる」ようになる。さらには、彼らは無礼だとあなたが考えるほどに、あなた自身も他人に無礼にふるまいがちになるのだ。
どれくらい長くこの効果が続くのか、あなたは疑問に思うかもしれない。さらなる研究なしには、それを確かに言うことは不可能だ。だが、私たちが行った一つの研究では、いったん無礼を受けると、そのことが、以後7日にわたって無礼な行為を働く原因になることがわかった。大学のネゴシエーション(交渉学)コースで行われたこの調査では、被験者たちに、複数の異なる相手との交渉を行ってもらった。私たちはそこで、ある被験者が無礼な相手と交渉した場合、次回の交渉では、今度は逆にその被験者が相手から無礼と見なされる、という発見をした。この実験では、一部の交渉はタイムラグなしで続けて行われたが、次の交渉までに3日のタイムラグがある場合もあり、7日のタイムラグを置いた場合もあった。驚いたことに、タイムラグの有無はあまり重要でなく、少なくとも7日の期間、その効果は消えないらしいという結果が出た。
不幸にして、無礼は伝染力を持ち、しかも無意識的に行われるため、止めるのは難しい。それではいったい、私たちに何ができるのか? 私たちの研究は、「職場で許容される行動の種類を再検討すること」の必要性を強く指摘する。虐待、喧嘩や暴力など、より重大な逸脱行動は、その結果が露骨に見えるため、まずもって容認されない。より軽微な性質を持つ「無礼」は、その結果の観察が少し難しい。だがそれは間違いなく実在し、他に劣らず有害だ。したがって、そのような行動を本当に職場で許容してもよいかどうか、今、問い直す時かもしれない。
職場無礼を終わらせるなんて無理だと、あなたは思うかもしれない。しかし、職場の文化は変わりうる。かつて、職場のデスクで誰もが喫煙していた頃、「それは自然なオフィスライフの一部だから、取り除くなんて無理」と、誰もが言っていたのではなかったか? ところが見回せば、職場での喫煙は、今はどこでも禁止だ。私たちはすでに「禁煙」と「差別」については、許容できないものと線引きした。その次に来るのは、「無礼」だろう。
This article was originally published on AEON. Read the original article.
Translated by Conyac