4割超が在宅で働く米国 一部大企業の制度廃止は新しい流れに?

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 一説によると、アメリカ航空宇宙局(NASA)でかつてエンジニアをしていたジャック・ニリーズ氏が、1970年代のオイルショック時に、通勤せずに働く可能性について調べたのが近代のリモートワーク(在宅勤務)の始まりと言われている。その後、インターネットの普及やテクノロジーの進歩などにより、アメリカを中心にさらに発展してきたリモートワークだが、ここへ来て逆行する動きが出始めてきた。このリモートワーク縮小の傾向は、今後も続くのだろうか。

◆リモートワーク大御所が方向転換
 5月18日付のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、リモートワークの先駆者だったIBMが5月、これまでリモートワークで働いてきた従業員に対し、出勤するか退職するかの選択を迫ったという。かつては従業員の40%がリモートワークという働き方をしていた同社だが、38万人の従業員のうち、何人が今回の決定から影響を受けることになるのかは明らかにしていない。

 WSJは、リモートワークを取りやめる動きを見せているのは、IBMだけではないと指摘。ヤフー、バンク・オブ・アメリカ、エトナがすでにリモートワークから方向転換をしていると伝えている。ヤフーに関して言えば、2013年にすでにリモートワーク禁止の方針を打ち出している。

◆リモートワークの利点と難点
 米デジタルメディアの『Business.com』によると、企業にとってリモートワークには、「生産性の向上」「従業員満足度の増大」、「諸経費の削減」、「欠席の低下」、「人材確保のしやすさ」などの利点がある。実際に、米デジタルメディアの『クオーツ』は、WordPress.comの親会社オートマティック社が、サンフランシスコにある広々としたオフィスを売りに出した話を伝えている。同社は550人いる社員全員にリモートワークという選択肢を与えており、倉庫を改装した天井の高いオフィスは共有スペースとして保有していたのだが、誰もオフィスに来ないため手放すことにしたのだという。Business.comが挙げる利点の「諸経費の削減」に当たるだろう。

 クオーツは同じ記事の中で、リモートワークの弱点も伝えている。ソフトウェア企業のエラスティック社は、35ヶ国に500人の従業員を抱えているが、主なコミュニケーション手段はメールやメッセージ・サービスになる。すると相手の表情が見えないため、従業員同士が衝突することも多いという。最高経営責任者のバノン氏はそのため、社内ではビデオ・チャットを奨励していると言い、企業文化を構築するため、各地に散らばる大勢のエンジニアをアメリカかヨーロッパに集める機会を年に2回は設けているという。

 ヤフーがリモートワークを打ち切った際にその理由として挙げていた1つが、まさにこの「肩を並べて仕事することの重要性」だった。

◆「IBMの動きは間違い」と指摘
 IBMが社員に出社を求めたのも同じ理由だ。社員同士がより頻繁にコミュニケーションをとれば、新しい洞察につながり、事業の勢いも増すだろうと目論んでいるのだ。しかしフォーブス誌に寄稿したジェフ・ボス氏は、「IBMのリモートワーク抑制の動きは間違っている」という厳しい見解を示している。同氏は記事の中で、「確かに、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションに勝るものはない。しかし、従業員のやる気に勝るものもまた存在しない」と主張している。つまり、出勤を強いられて不満を抱く従業員は会社を去ってしまうリスクがあり、そうして去っていった元従業員たちは、IBMでは働かない方がいい、と主張するような存在になる可能性があるというのだ。

 WSJ(6月4日付)もまた、IBMやヤフーなど、これまでリモートワークを推進してきた有名企業の方向転換に反して、アメリカにおいてはリモートワークという働き方は今後も避けられないと指摘している。ギャラップ社が行った調査によると、仕事の一部または全部を在宅でこなす人の割合は2016年、全米で43%に達している。2012年は39%だった。さらに、「リモートワークのみ」という働き方をしている人の割合は、15%から20%に増加した。

 同記事はさらに、従業員の58%が、少なくとも週に1日はリモートワークをするデル社を例に挙げた。同社は2013年の時点で、「2020年までに半数の社員が週の一部は自宅から仕事する」ように目標を掲げていたが、早くもこれを達成したことになる。

 また、フォーブス誌が2月に掲載した記事では、「フレキシブルな」仕事の検索サイト「flexjobs.com」が行った調査で、「フレキシブルな働き方」で一番人気だったのは、「フレックスタイム」(52%)や「パートタイム」(36%)、「フリーランス」(34%)を大きく上回り、「リモートワーク」(72%)だった。

Text by 松丸 さとみ