これから世界をリードする「T型人材」 専門知識に加えて求められる能力とは?

 クラスの人気者で数学ができる子供は、未来の高収入管理職。カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の経済学者、キャサリン・ウェインバーグ氏の研究によると、学生時代に部活動や学校の係などに積極的に取り組み数学の成績がよかった生徒は、他の生徒たちと比較して高収入の管理職として職場で活躍している人が多いことがわかった。

 昨今、学生時代に本をよく読むような「知性」に加えて、クラスの人気者やリーダーとなるような「対人スキル」を併せ持った者の需要が高まっていることをこの研究結果は示している。

◆知性と対人スキルを持ち合わせた子供が、今のエリート
「知性と対人スキルを併せ持った生徒が大人になってより多く稼ぐ傾向は、1980年代に比べて高まっている」とUCSBのサイトでウェインバーグ氏は発表している。頭が良く自分の専門分野を手際よく確実に行うだけではもはやエリートになることはできないのだ。

 これはおそらく、現在多くの企業がイノベーションに直面していることと関係している。「イノベーションか、それとも死か」という言葉が度々使われるようになった今、どのような企業においても「継続」はリスクであり、変化を繰り返さなければ企業として存続の危機に立たされてしまうこともしばしばだ。数年前にはGoogleとその肩を並べ、インターネット業界を世界で牽引していたYahoo!でさえも、通信大手ベライゾン・コミュニケーションズに中核事業が売却されることになったことからも、今やどのような企業においても革新的な変化が求められていることは明らかだ。

◆T型人材とは「深くて浅い」を併せ持つ人
 多くの企業でイノベーションが急務となっている現在、注目されているのが「T型人材」だ。アップルコンピュターのマウスをデザインしたことでも有名な、サンフランシスコ発のデザインコンサルティングファームIDEOは、この「T型人材」を育てることで、世界中に様々な革新的アイディアやプロダクトをもたらしてきた。同社のCEOティム・ブラウンは米ビジネス誌チーフ・エグゼクティブ」のインタビューで、その人材について次のように紹介している。

「T型人材とは、2つの側面を持つ人のことだ。1つは、T文字の縦の線のように自分の核となる深い専門知識でクリエイティブプロセスに貢献する側面。これは工業デザイナーや建築家、社会学者、ビジネススペシャリスト、機械技師など、あらゆる業界のあらゆる人々に当てはまる。そして2つ目の側面は、T文字の横線のようにコラボレーションによって自らの専門外の知識や技能を広げることができる人だ。これには、他人の視点に立って物事を考える共感力と、他の人の専門性に強く興味を持つことが重要だ。T型人材とは奥深さと、広さを併せ持つ人のことなんだ」

◆T型人材エリートが独占する、未来の高収入管理職
 奥深い専門知識と、専門外への幅広い適応力を併せ持つこの「T型人材」は、まさに冒頭の研究結果で判明したエリート像と一致する。

 中間層が、富裕層と貧困層へと二極化する将来。知性に裏打ちされた強い専門性を持ちながらも、バックグラウンドの異なるチームメンバーと様々な視点から意見の交換を行い、クリエイティブで斬新に物事を解決できるこの「T型人材」は、世界基準のエリートとして、今後高収入の職を独占していくのかもしれない。

Text by 高橋由佳