iPhoneの勢いに陰り サムスンの復活、中国での不振…日本でも今後シェア低下の予想も

 アップルiPhoneの累計販売台数は間もなく10億台に達する見込みだ。アップルは米時間26日(日本時間27日早朝)、第3四半期(4~6月期)の業績報告を行う。第2四半期はアップルにとって13年ぶりの減収(前年同期比)だった。売上高全体の約3分の2を占めるiPhoneの販売台数の減少が大きく響いた。特に、大市場の中国での落ち込みが大きかった。中国では国内スマホメーカーの勢いが強く、アップルはそれら企業に押されており、5月の販売台数シェアでは5位にまで転落していた。日本でもiPhoneのシェアはこの先30%程度まで低下する可能性がある、と予想するアナリストもいる。

◆iPhoneの累計販売台数はまもなく10億台を突破?
 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、3月までのiPhoneの累計販売台数と、4~6月期の推定販売台数4000万台を足し合わせると、6月末時点での総販売台数は9億8700万台になるとのアナリストの見方を紹介。アナリストらは今期も同様のペースでiPhoneが売れるとみており、そのペースで行くと今週中に10億台が達成される可能性がある、またはすでに達成済みとみているという。FTによると、iPhoneの総販売台数の半分は過去2年間で販売されたものだ。

 だが昨年までの好調の反動もあって、iPhoneの販売の勢いは衰えている。FTによれば、iPhoneの4~6月期の販売台数は前年同期比およそ15~18%減だったとアナリストらは予想している。またモルガン・スタンレーのアナリストらは先週の顧客向けレポートで、今期はiPhoneの販売の落ち込みが「底を記録する」と予想していると述べたそうだ。

 FTは不振の原因として、アップルのティム・クックCEOが言うところの「マクロ経済の強い逆風」のせいで一部顧客の旧機種からの乗り換えサイクルが延びていることや、アジアでの低価格機種との競争、サムスン電子の復活に言及している。サムスンGalaxy S7はアメリカではiPhone 6Sの販売台数を上回っているという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が米調査会社ガートナーの調査データから伝えるところでは、1~3月期のスマホ販売数の世界シェアは、サムスンが23%で首位、次がアップルの15%だった。

◆中国での落ち込みが全体に大きく影響。中国メーカーに押される
 中国はスマホの世界最大の市場だが、アップルにとっても最大の海外(北米以外)市場である。ブルームバーグによると、アップルの売上高全体の約4分の1を中国が占めている。2013年から2015年にかけて、中国での売上高は倍以上になったという。

 このため、1~3月期の中国での売上高の落ち込みが、売上高全体の落ち込みの大きな部分を占めていたとブルームバーグは指摘する。大陸中国に香港と台湾を合わせた中華圏では、売上高の減少は26%に及んだ。これには香港ドル高の影響が大きかったとアップルは主張している。為替の影響を除いた場合、大陸中国での売上高は7%減だった。なお1~3月期の売上高全体は13%減(前年同期比)で、アナリストらは4~6月期は15%減を予想しているという(ブルームバーグ)。

 中国市場での売上高の落ち込みには、中国経済の減速という要因もあるが、ブルームバーグは中国のスマホメーカーの台頭に特に注目している。それらのメーカーの製品には、スペックはiPhoneと同等でありながら値段が安いものがある。また比較的低価格帯の機種の性能も底上げされてきている。

「アップルは(中国の)中間層の拡大によって成長がもたらされると期待しているが、これらの中間層は現在、アップルではなく国内ブランドを選択している」「中国メーカーは中間帯で大きなシェアを獲得しつつある。それらの企業はまだアップルと正面切って競合していないが、アップルの潜在顧客の多くを確実に奪っている」と調査会社カナリスのリサーチアナリスト、ニコール・ペン氏はブルームバーグに語っている。

◆世界3位のスマホメーカー、ファーウェイらの躍進
 香港拠点の調査会社カウンターポイント・リサーチによれば、アップルは中国のスマホ市場で5月、販売台数のシェアで5位に転落したという(ブルームバーグ)。同社によると、中国のファーウェイ(華為技術)、VIVO(維沃移動通信)、OPPO(広東欧珀移動通信)、シャオミ(小米科技)の順番で上位を占めた。トップのファーウェイのシェアは17.3%、これに対してアップルは10.8%だった。上位4社を合わせたシェアは53%に達した。

 ガートナー調査によると、ファーウェイは1~3月期の世界シェアでは第3位の8.3%だった(WSJ)。前年同期には5.4%だった。1~3月期には2800万台以上のスマホを販売したが、これは前年同期比59%増だった。WSJはファーウェイのスマホ事業はこの数年間で急成長していると語る。ファーウェイは基地局などのネットワーク機器も扱っている。同社の今年1~6月の売上高は2455億元(約3兆9025億円)に及んだ。

◆iPhone・アップルのブランドよりも自国製を重視?
 中国のユーザーがiPhoneではなく国内メーカーのスマホを選ぶのには、価格以外の理由もあるようだ。ブルームバーグは、中国に限らないスマホ市場全体の傾向として、顧客の関心がiPhoneの持つブランド性よりも、機能を重視するようになってきているとほのめかした。ロイターは、中国ではiPhoneはステータスシンボルと広くみなされている高級品だと語っているが、こういう見方の持つ影響力も弱まりつつあるのかもしれない。

 またブルームバーグは、iPhoneのインターフェースなどのカスタマイズ性がAndroidスマホよりも低いために、時として気まぐれな中国人顧客を引きつけることがより難しくなっていると指摘している。

 さらには、市場調査のカンター・グループのアナリストLauren Guenveur氏は「(中国ユーザーの間に)中国製スマホを使うこと、所有することに対する誇りもある」とブルームバーグに語っている。

 南シナ海での中国の主張が常設仲裁裁判所で認められなかったことを受け、中国国内ではいくつか反米デモが起きたが、アップル製品を販売する店舗(非アップルストア)もそのターゲットとなったことをロイターは伝えている。ただしデモは小規模かつ一時的だったとのことだ。とはいえ、これがアップル製品の販売に長期的に影響しかねないとの懸念を表明した人もいたようだ。

◆日本でもiPhoneのシェア低下の可能性?
 iPhoneのシェア低下は今後、日本でも起こる可能性がある。スイスの金融機関UBSが6月28日の投資家向けレポートでその可能性を指摘していた。米ニュース専門放送局CNBCなどが報じている。

 UBSのアナリストらによると、日本でのiPhoneの販売が今後減少する要因がいくつかある。一つは、政府が携帯電話料金の値下げを携帯電話会社に求めた影響だ。携帯電話会社は従来、他社からの乗り換え客を呼び込むため、高額のインセンティブを設定し、携帯電話端末の取得費用を見た目上、安く抑えていた。その分を月々の料金に上乗せしていた。このシステムがなくなれば、iPhoneの価格も以前ほど割引されなくなる。また、iPhoneより価格の安い代替機が食い込んできており、アップルのシェアは時間をかけて徐々に50%から30%に下落する可能性がある、とUBSのアナリストらは指摘している。

 1~3月期、日本はアップルの売上高の約8%、営業利益の約11%を占めた。アップルにとって極めて重要な市場だとCNBCは語っている。またCNBCによれば、日本でのiPhoneの販売価格はアメリカよりも15~20%上乗せされていて、iPhoneのマージンが最も大きい市場でもある。

 MVNOのユーザーが増えてきていることも、iPhoneの販売にとってはマイナス要因になりうる。MVNOの場合、ユーザーは携帯電話会社のプランを通じてよりも、自分で携帯端末を購入する傾向がある。「500万人を超えるMVNOの加入者がいると思われるが、その人たちは旧型機をこれまでよりも長く使い続けそうだ。よって、アップルには、端末のシェアを失うことと、(新機種への)買い替えサイクルが長くなることの、二重の打撃の可能性がある」とUBSのアナリストらは指摘している。

Text by 田所秀徳