中国進出した米企業の不満高まる…景気減速による収益悪化、政府の国内企業優遇

 19日に発表された中国の2015年の国内総生産(GDP)成長率は、25年ぶりの低水準だった。中国経済の減速は、中国で事業を行う外国企業の活動にも影を落としている。だが、外国企業にとっての問題は、景気の減速だけではない。中国に特有のリスク、「チャイナリスク」がある。日本企業であれば、歴史問題や、わが国の尖閣諸島に対する中国の領有権主張に端を発する、反日感情の悪化、中国政府の対応の硬化といったリスクが考えられる。日本企業に限らず、外国企業は、現在どのようなチャイナリスクを感じているだろうか。在中国米国商工会議所が会員の米企業に対して行ったアンケート調査は、それを浮き彫りにしている。

◆中国のビジネス環境は厳しくなりつつある、と米企業
 この「ビジネス環境調査」は、在中国米国商工会議所が18年間、毎年行っているもので、2016年の報告書が20日発表された。昨年に引き続き、米コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーと共同で行われた。今年の回答企業数は496社だった。

 同商工会議所はプレスリリースで、中国市場の成長可能性について、依然として過半数の企業が楽観的だと冒頭で伝え、明るいイメージを強調しようとしている。だが、中国での事業について、改めて困難を感じている企業は少なくないようである。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)やロイターは、むしろほとんどそういったマイナス面だけを報じている。

 どちらの記事も、形となって現われたチャイナリスクと、景気減速から来る影響について報じているが、その伝え方は若干異なっている。まずロイターの指摘する景気減速の影響を見てみよう。

◆黒字企業減る。企業はさらなる景気後退を覚悟
 ロイターは、中国の景気減速が、より多くの外国企業の収益に打撃を与えつつあることが調査で判明した、と報じた。米商工会議所は、昨年、企業は売り上げと収益に関して、ますますプレッシャーにさらされるようになったと語っている。昨年(2015年)は黒字だったと回答した企業の割合は64%だが、これは5年ぶりの低さだった。ロイターによると、昨年の調査では73%だった。

 売り上げに関しては、2015年は前年と比べて横ばい、もしくはマイナスだったと回答した企業が45%。昨年は39%だったので、伸びが鈍化したことが分かる。

 今年の景気の見通しについて、企業はさらなる減速を覚悟しているようだ。中国の中央銀行である中国人民銀行は昨年12月、2016年の中国のGDP成長率は6.8%に低下するだろうと予測した(ロイター)。だが調査では、半数近い48%の企業が、GDP成長率は6.25%以下になると予測した。35%の企業は6.25~6.75%になると予測した。

◆中国の自国企業への保護主義が再び強まっている?
 そういった経済状況の中、中国指導部は、外国の多国籍企業と競い合うよう、自国企業を強化している(WSJ)。おそらくそのためだろう、以前よりも海外企業が中国政府から歓迎されていないと感じる、と回答した企業の割合は77%に及び、昨年の47%、おととしの44%を大きく上回った。

 米商工会議所によると、工業、資源、テクノロジー、重点的な研究開発を必要とする部門でその割合が最も高く、WSJによると83%に上るという。これらは、中国政府が自国企業に最も奮闘を期待している分野と見てよさそうだ。

 種々の規制や法律や政策を通じた保護主義、外国企業への圧迫という形で、企業は歓迎されていないと感じるようである。

 調査では企業の57%が、一貫性のない規制の解釈と、不明確な法律が、中国でのビジネスでの最大の難題だと回答した。これは、規制や法律が当局によって恣意(しい)的に運用されている、あるいは運用される可能性があることをほのめかすものだろう。

 WSJは、中国政府が価格設定での圧迫と、独占禁止の調査において、これまで以上に断定的になっている、と語る。またテクノロジー企業に対し、自社保有データの提供と、ソースコードの開示を義務づける規則と法律を制定した、と伝えている。ロイターは、国家安全保障に関する法律によって、海外技術の使用が制限されていることについて語った。WSJによると、10%の企業は、規制の障害を理由に、中国から会社機能の一部を移転する計画、もしくはすでに移転済みだという。また、テクノロジー企業の44%は、将来の規制環境について悲観的と回答しているそうだ。

 ロイターは、規制と保護主義への懸念によって、企業心理は影響を受けている、と語っている。米商工会議所によると、中国での保護主義の高まりは、企業が挙げる中国でのビジネス上の難題の6位にエントリーしている。必要な認可を取得する難しさも、難題のトップ5に入っているそうだが、これは外国企業に限った話かどうかは分からない。

「中国指導部は、中国は法の支配に従うと力説しているけれども、当商工会議所の会員企業は、規制措置、法的措置が、公正とはとても言えず、十分な監督を欠いていると、引き続き報告している」と、米商工会議所のジェームズ・ジマーマン会頭は報告書で語っている(ロイター)。

◆岐路を迎えつつある中国での外国企業のビジネス
 こういった懸念がありながらも、企業の68%は、今後も中国での投資を拡大すると答えている。だが、残りの32%は、中国で新たな投資を行う計画はないと回答しており、WSJによると、これは世界経済危機以来、最大の割合だという。2014年には27%だったそうだ。

 米商工会議所によると、25%の企業は、過去3年以内に中国から生産能力の一部を移したか、現在それを計画中だという。工業、資源、消費財企業では、移転先として発展中のアジア諸国を挙げたところが最も多かった。テクノロジー企業と他の研究開発重視企業では、アメリカか、北大西洋自由貿易地域(NAFTA)を移転先として挙げたところが最も多かったという。2016年、20%以上の企業が人員削減を計画しているという。

 ジマーマン会頭は、米企業は「今後、中国での収益の伴う成長を確かなものにするために、戦略を見直す必要があるだろう」と語っている。

 米商工会議所は、いくつかの面ではビジネス環境と規制環境は改善している、とも語っている。例えば、知的財産権の取り扱いに関しては、中国はこの5年間で改善したと90%の企業が答えている。また、汚職は、過去には中国でのビジネス上の難題のトップ5に入っていたものだが、昨年から2年連続で、主要な難題のリストに入らなかった、と伝えている。

Text by 田所秀徳