米リニア計画、日本のロビー活動で一歩前進? 渋っていた米政府が一転、補助金を交付へ

 日本が売り込みをかけている米東海岸のリニア新幹線構想で、アメリカ連邦鉄道局(FRA)が初めて補助金拠出を認めた。先行開業路線が計画されているメリーランド州に2780万ドル(約34億円)が交付され、計画立案や設計分析、環境評価などに用いられる。8日に山梨県のリニア実験線に試乗したアンソニー・フォックス米運輸長官が明らかにした。

 米リニア構想は、高額な建設資金などを理由に一旦は下火になっていた。しかし、今春ごろから、フォックス長官やメリーランド州のラリー・ホーガン知事ら推進派の声が大きくなってきている。補助金は、あくまで事前調査資金という位置づけだが、計画実現の足がかりとなるか注目される。

◆一旦は却下された補助金申請が認められる
 米リニア新幹線構想は、「北東回廊」と呼ばれる米国で最も交通量の多いニューヨーク〜ワシントンDC間を、時速300マイル(約480km)で結ぶ計画だ。実現すれば、車・飛行機と比べて遅れていると言われるアメリカの鉄道インフラが一気に近代化することになる。構想を提案・推進する日本政府や東海旅客鉄道(JR東海)は、ワシントンDC〜メリーランド州ボルチモア間の約60kmの区間を先行して開業させる方向で米側に働きかけている。現在はアムトラック(全米鉄道旅客公社)の列車で40分程度かかるが、リニアではそれが15分に短縮される。

 補助金は、予備調査資金として、メリーランド州とメリーランド経済開発公社に交付される。州の申請を連邦政府が認め、交付が決まった。同州は2010年にも17億ドルを申請していたが、その際は時期尚早として却下されていた(ワシントン・ポスト紙=WP)。プロジェクトを主導するのは、「ノースイースト・マグレブ」という民間組織で、JR東海と協力して実務を行う(ウォール・ストリート・ジャーナル紙=WSJ)。

 昨年就任したメリーランド州のホーガン知事(共和党)は、リニア推進派と言われる。地元紙「ボルチモア・サン」によれば、1990年代にリニア計画が持ち上がった際には、地元でも高い関心をもって迎えられたが、2000年以降は高額なコストや「地域コミュニティが崩壊する」などの理由で、議論はフェードアウトした。しかし、ホーガン知事は訪日してリニアに試乗した今年6月以降、「予想外なことに、このアイデアを後押しするようになった」という。WPも、同知事は「リニア技術をアメリカに取り入れることを約束した」と記している。

◆計画実現の試金石となるか
 補助金を出す側のフォックス運輸長官は、8日に石井啓一国土交通相の案内で、 リニア実験線に試乗した。同行したWSJの記者のブログ記事によれば、フォックス長官は25分間ほど乗車し、その間の最高速度は時速505kmに達した。同長官は特に高速走行時の静粛性に感銘を受けた様子で、「日本の人々の偉大な研究の成果だ」とリニア技術を賞賛した。また、日経新聞などの報道によれば、「自分の目でこの技術を見たいと思っていた。我々の研究がさらに進むことを願っている」と述べ、将来の構想実現に意欲をみせた。

 昨年4月には、キャロライン・ケネディ駐日米国大使も、安倍晋三首相の案内でリニアに試乗している。5年越しで補助金交付が実現した背景には、こうした地道なロビー活動に加え、日本側の「技術の無償提供」「数10億ドルの資金融資」といった援助の提案があった。現地で売り込みに精力的に動いている佐々江賢一郎駐米大使は、「たとえ総工費のほんの一部にしかならないとしても、この補助金交付がマイルストーン(節目)になる」と歓迎している(WSJ)。

◆読者コメントは否定的な意見が優勢
 ワシントン〜ボルチモア間の総工費は、100億ドルから120億ドルと見積もられている。「ボルチモア・サン」によれば、地元のリニア推進派は、建設コストを日本政府・民間企業・米国民の税金で分担すべきだと主張している。今回のニュースに対する市民の関心も高いようだ。WSJの電子版には、140近い読者コメントが寄せられている。ただし、こちらは依然として否定的な意見が優勢だ。

・もう2015年だ。今何もしなければ2025年までに時速300マイルで走る鉄道は実現しないだろう。アムトラックは鉄道の運行の仕方が分かっていない。

・(リニア構想が)予算をはるかにオーバーしていることを知れば、皆驚くだろう。考えてもみてほしい。政府が作ったもので本当に時速300マイルで旅をしたいか?彼らは、学校や病院も満足に運営できない連中だ。

・これは莫大な金の無駄だ。2700万ドルは、この鉄道建設コストのほんのわずかな一部分だ。そして、この計画は絶対に実現しない。密集市街地に直線の線路を敷くのはほぼ不可能だし、総工費は法外だ。

Text by 内村 浩介