スマホゲーム参入の任天堂とアップル、姿勢似てる? 明暗分けた決断の違いを米紙指摘

 任天堂がいよいよスマホゲームに参入する。任天堂は17日、「マリオ」などのキャラクターを含む、任天堂の知的財産を活用したスマホゲームを、DeNAと共同で開発、運営すると発表した。

◆専用機は不振にあえぐ一方、スマホゲームは台頭
 任天堂はこれまで、自社製のゲーム専用機だけにゲームを提供してきた。しかし近年、スマートフォンやタブレットでゲームを楽しむ人が増大した影響で、専用機向けのゲーム市場は大きく縮小している。朝日新聞によると、2007年に7千億円規模だった国内市場は、2013年には4千億円になったという。任天堂は2014年3月期までに、3年連続の営業赤字を記録した。

 一方、ゲーム市場調査会社DFC Intelligenceのアナリスト、デービッド・コール氏の見積もりでは、2014年のスマホゲームの売り上げは約150億ドル(約1.81兆円)だったと、ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙が伝えている(明記されていないがおそらく世界市場)。

◆かたくなに自社製ハードにこだわっていた任天堂
 投資家やアナリストは、任天堂に対して、スマホゲームに参入するよう求めていた。しかし任天堂は、かたくななまでに自社製ハードにこだわる姿勢を見せていた。

 任天堂の姿勢は、いくらかアップルに似ている、とNYT紙は語る。アップルは、ハードと、そのハードで動くソフトを自社で管理することによってのみ、高品質な製品が生み出せると考えている、としている。しかしそのアップルでさえも、iTunesのソフトとサービスをWindowsパソコン向けに提供し、パソコン市場の実情に速やかに屈した、と語る。対照的に、任天堂のモバイル端末に対する嫌悪は、独断的で、同社の将来にとって有害であるように見えるようになっていた、としている。

 前述のコール氏は、任天堂にとっての問題は、以前有していた顧客基盤を失いつつあったということだった、と分析している。その顧客基盤とは、任天堂製品でゲームデビューする13歳未満の子どもたちだという。いまは、その子どもたちが、スマホやタブレットでゲームデビューするという。スマホゲームの大半は、任天堂のゲームに比べてはるかに安価であり、スマホではプレイ無料のゲームもごく普通だ、と同紙はその背景を説明している。

 またNYT紙は、任天堂はWiiで、それまでゲームを一度もプレイしたことがなかった人たちの間に、新たなユーザーを発掘したが、任天堂がスマホ、タブレットに奪われたのは、まさにそれらのカジュアルゲーマーだった、と語っている。

◆株式市場は好反応。任天堂はまたもよみがえる?
 遅きに失した感はあるものの、株式市場は、任天堂のこの決断を好感をもって受け止めたようだ。発表が行われたのは、17日の東証の取引時間終了後だったが、翌18日には、任天堂、DeNAともに株価が急騰し、上限いっぱいのストップ高となった。任天堂の株価は年初来高値を更新した。

 アメリカでも任天堂の株価は急伸した。フォーブス誌が伝えている。17日、任天堂の米国預託証券は、前日比27.5%高の18.22ドルの終値を付けたという。ゲーム会社の1日の値上がりとしては、少なくとも1990年以来で最大のものだった、と同誌は報じている。なお18日の時点では、続伸し、23ドル台で推移している

 しかし同誌は、『キャンディークラッシュ』のキング・デジタル・エンターテインメントなど、スマホ向けゲーム会社の株価が低落傾向にあることを示し、任天堂はパーティーに遅れてしまったかもしれない、と語っている。

 NYT紙は、最近の苦闘ぶりにもかかわらず、任天堂を完全に考慮外に置くことは難しい、と語る。同社は70億ドル(約8500億円)以上の現預金と短期保有有価証券を有している。アタリ、SEGA、3DOといった有名企業が衰退、もしくは消滅するという業界で、任天堂は何度も、自社を再生させるという非凡な能力を示している、と語っている。

◆任天堂の配信環境が「Google Play」や「App Store」を脅かす存在になる可能性も?
 ゲーム情報サイト「オージー・ゲーマー」は、任天堂の参入によって、現在、「Google Play」とアップルの「App Store」が中心となっている、スマホゲームの販売環境が変わるかもしれない、と考察している。

 記事は、任天堂がスマホゲーム市場に投資せよという催促に抵抗していた最大の理由の一つは、スマホゲーム市場では、利益の分け前をコントロールすることができないからである、としている。「Google Play」、「App Store」では、アプリや、アプリ内アイテムの購入代金などに30%の取引手数料がかかる。任天堂はこれを望まないだろうというのだ。

 また、スマホゲームでは、広告やアイテム課金などを用いることで、アプリ本体は無料や低額で提供し、ダウンロード数を稼ぐ、という手法が一般的だ。しかしこの手法は、開発にお金をかける任天堂にはそぐわない、と見ているようである。

 任天堂とDeNAは、これらを避ける方法をどうにか見つけ出している、と推測するのは理に適っているように思える、と記事は語る。それは、任天堂独自のアプリストアとして機能する、登録専用のアプリを提供することだという。課金や購入は、アプリ内ではなく、ウェブサイト上や、登録済みのクレジットカードで直接決済させるものだという。

 そしてそのシステムは、サード―パーティーのゲームメーカーにとっても利用できる、ゲーム専用のアプリストアとして発展する可能性がある、と記事は語っている。ただし、現時点ではまったくの推測である、と断っている。

Text by NewSphere 編集部