欧州に積極攻勢 日立、伊の鉄道事業買収 ハワイ高架鉄道など世界への足がかりに
日立とイタリアの複合企業体フィンメカニカは24日、鉄道部門の買収で合意に達したと発表した。日立は、フィンメカニカ傘下の鉄道信号システム製造会社アンサルドSTSの株式40%を7億7300万ユーロ(約1004億円)で取得すると共に、同鉄道車両製造会社アンサルド・ブレダを3600万ユーロ(約48億5000万円)で買収する。ロイターなどが報じている。
◆鉄道車両・信号システム製造の子会社2社を取得
フィンメカニカはイタリア政府が32%保有する軍需、航空産業を中心とした巨大コングロマリット(複合企業体)で、不採算部門の鉄道関連子会社の売却を探っていた。一方の日立は、2011年以降の原発停止や国内市場の低迷によりヨーロッパを中心とした海外進出に舵を切っており、両者の思惑が合致した形だ。
日立は、アンサルドSTSの株式を40%取得した後、残りの株についてもTOB(株式公開買い付け)を行う義務がある。フィンメカニカのモレッティCEOは、敵対的な買収の動きはないとしており、アンサルドSTSも近い将来、アンサルド・ブレダと同じく日立の完全子会社となる見込みだ(ロイター)。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、今回の買収の最終的なコストは21億ドルから25億ドル(2500億〜3000億円)程度になるとしている。
両社の買収には中国のハイテク企業なども関心を寄せていたが、金銭面などで優位に立った日立に軍配が上がったようだ。巨額な買収劇となったが、ブルームバーグは、「それでもリーズナブルな価格だ。今の日立はグローバル市場を見据えている。この取引は、特にヨーロッパ市場の開拓に力を入れていくという日立の明白なメッセージだ」(マッコーリー・グループのアナリスト、ダミアン・ソング氏)という識者コメントを掲載している。
◆ヨーロッパでの競争力を強化
日立は昨年、イギリスの高速鉄道車両の契約を勝ち取ったのを機に、東京からロンドンに鉄道部門の本部を移している。各メディアは今回の買収劇により、日立の鉄道事業は大きくヨーロッパに軸足を移したと見ているようだ。
一方、アンサルド・ブレダは、イタリア国鉄の高速鉄道車両やコペンハーゲンの自動運転地下鉄車両の製造に実績がある。ロイターは、アンサルドSTSと合わせて買収する事で車両と信号システムのパッケージ販売が可能となるとしている。その結果、「ヨーロッパで(日立の)鉄道メーカーとしての存在感が高まる」とし、ドイツのシーメンスやフランスのアルストムといった強力なライバルに対する競争力が高まると見ている。
ブルームバーグがまとめたデータによれば、日立は昨年末の段階で7530億円の現金を保有しており、この3年間で38億ドル(約4520億円)を企業買収に使っている。そのうち33億ドル(約3920億円)が今回を含めヨーロッパ企業を対象としたものだという。
◆ハワイの高架鉄道、伊高速鉄道などのビッグビジネスも
アンサルド・ブレダとアンサルドSTSの合弁企業は、米ハワイ・ホノルルで2017年開業を目指す高架鉄道「ホノルル・レール・トランジット」の車両とシステムの契約を結んでいる。また、アンサルド・ブレダはカナダのボンバルディアと共同でイタリア国鉄の高速鉄道車両『ETR1000』を50両受注している(ブルームバーグ)。日立による買収がこれらにどう影響するかも注目される。
アンサルド・ブレダは4つの工場と2300人の従業員を抱える。マッコーリー・グループのソング氏は、不採算部門である同社を再生するにあたり、日立が最も気をつけなければならないのは従業員との労働争議だと述べている。ただし、同氏は日立はアンサルド・ブレダを「完全に再構築する所までは踏み込まないだろう。そのため、労務管理面で大きな混乱が起きるリスクは少ない」と見ている(ロイター)。