インドネシアで日本の中古鉄道車両が大活躍 新幹線も導入なるか? 安全意識の高まりも後押し
インドネシアに輸出される日本の工業製品と言えば、まず自動車と二輪車が思い付くだろう。
確かに日本のモーター製品は現地では圧倒的なシェア占有率を誇り、首都ジャカルタの目抜き通りを走る車はその殆どがトヨタ、ホンダ、スズキ、ダイハツ、マツダのいずれかである。だが実は、そうした日本車ラッシュがASEAN諸国で最も深刻な交通渋滞を生み出しているという側面もある。
その解決策として、インドネシア政府は公共交通機関の整備に乗り出した。代表的なものはやはり電車だ。大勢の人を迅速に、首都圏の各地に移動させることができる。ジャカルタの都市電鉄の発達は、近年目覚しいものがある。
そしてそのための車両は、何と日本から輸出されたものなのだ。
◆中古車両、第二の活躍
案外知られていないことだが、日本とインドネシアの鉄道線路の規格は同じである。だから日本で役目を終えた車両をそのままインドネシアに持ってきても、すぐに稼働させることができる。
現地メディアのJPNNによると、去年一年間に日本からインドネシアへ輸出された中古鉄道車両は176両に達するという。これらは現地鉄道運行会社クレタ・アピ・インドネシア社により逐次運行される。車体価格は1両およそ10億ルピア(約1000万円)、車体年齢は平均25年である。ちなみに2008年からの累計導入実績は664両に上る。
ジャカルタの都市電を実際に利用してみれば、その車両が我々日本人にお馴染みの構造だということに驚く人も少なくない。ちなみに中吊り広告という、インドネシアには今までなかった宣伝媒体を普及させたのも日本製車両の影響によるものだ。
◆車両を量産できないインドネシア
だが、なぜインドネシア企業は日本の中古車両に頼るのだろうか。自国生産も不可能ではないはずである。現に長距離列車の車両は、現地列車製造メーカーのインカ社が生産したものだ。
この疑問について、現地紙シンドニュースが答えを出している。インカ社はインドネシア唯一の列車生産企業ではあるが、その生産能力は年に僅か40両。お世辞にも車両の量産が可能と言える能力を持ち合わせていないのだ。だが一方で、ジャカルタやその他のジャワ島大都市のインフラ整備は急ピッチで進められている。インカ社はクレタ・アピ・インドネシア社に対して生産能力向上のための投資を呼びかけているものの、当面は海外からの中古車両に依存するしか手段がない。
また、日本側にとってもインドネシアへの車両輸出は次なるステップに向けた重要な伏線でもある。
◆安全運行を求める市民
現在、インドネシアではジャワ島横断高速鉄道計画の構築が進められている。東西の経済都市であるジャカルタ〜スラバヤ間をつなぐ長距離路線だ。
この計画には、日本の鉄道企業も関わっている。すなわち新幹線導入事業である。現在世界中で売り込みを図っている日本の新幹線だが、インドネシアでもその計画が徐々に具体化しつつある。現地紙コンパスは、JR東日本の西山隆雄常務取締役のインタビュー記事を配信している。
「もしインドネシア政府が承諾するのなら、我々は新幹線導入事業に対して前向きに取り組む用意がある。計画ではジャカルタ〜スラバヤ間というルートだが、その前段階としてジャカルタ〜バンドゥン間の鉄道整備を実施したい」
さらに西山氏は、コンパスによるインタビューの中で特に次のことを強調している。
「新幹線は開業以来、半世紀に渡り重大な事故を起こしていない」
「新幹線に関しての言及は、同時に完璧な安全性への言及だ」
「もし安全性と快適性に特化した高速鉄道システムを求めるなら、それらは日本から輸入すべきだ」
この記事が配信されたのは昨年の12月9日。それから1ヶ月と経たないうちに西山氏の言葉はとてつもない重みを増した。12月28日に発生した格安航空会社エアアジアの墜落事故が、インドネシア市民に移動手段の安全性を考えさせる大きなきっかけとなったのだ。以来、インドネシア社会の論調は安全性重視に傾いており、日本の新幹線関係者のセールストークと合致するようになった。
当然、インドネシア政府は、厳密な運行管理を第一とする高速鉄道システムを求めるだろう。先のエアアジア機墜落事故では、運輸省の運行管理の杜撰さが露呈し市民から大きな批判を浴びた。もしも安全性に疑問符の付く高速鉄道を導入してそれが大事故を起こした場合、すぐさま政治不信に直結してしまうのがインドネシアという国である。
こうした点からも、我が国の鉄道システムに与えられた使命は非常に重いと言えるのだ。