第一生命、米保険会社を5000億円で買収へ “円安なのになぜM&Aに奔走?”海外紙が要因を分析
第一生命保険が、アメリカのプロテクティブ生命保険を買収する交渉を進めていることがわかった。すでに最終調整の段階にあるという。プロテクティブ生命の時価総額は約4200億円だが、買収額は5000億円以上に及ぶ見通しで、日本の保険会社による海外企業の買収としては、過去最大のものとなる。
【買収を繰り返して大きくなったプロテクティブ生命】
このニュースは日本経済新聞がまず報じたもので、その後、各社とも報じるようになった。第一生命は2日、プレスリリースで、「米国生命保険会社の買収に向けた検討を行っていることは事実ですが、現時点で決定した事実はございません」と発表した。具体的な社名は挙げなかった。
プロテクティブ生命は、創業が1907年で、他の保険会社の買収や保険契約の買い取り47件を繰り返し、規模を拡大してきたという。昨年4月には、フランスのアクサから、アメリカ国内の保険契約を10億6000万ドルで買い取ることで合意した。それを受け、この1年間で株価が30%以上高騰したと、ブルームバーグが報じている。昨年の保険料収入は約30億ドル(約3000億円)、純利益は約4億ドルだった。
【海外企業の買収・投資を進めている第一生命】
第一生命も、ここ数年、海外企業の買収と投資を積極的に推し進めている。フィナンシャル・タイムズ紙によると、2010年にはオーストラリアの生保タワー・オーストラリア・グループを12億ドルで買収した。2013年にはインドネシアの生保パニンライフの株式の40%を3億3700万ドルで取得した。日経によると、同社が2010年に株式会社化し、東証一部に上場した背景には、資本調達をスムーズにし、海外企業の買収をよりスピーディーに行えるようにしたい、という意図があったという。
ロイターによると、第一生命は、昨年度の決算で、日本の大手生保の中では唯一、保険料収入の増収を記録した。それには、オーストラリアにおける保険料収入が寄与しているという。
昨年度、第一生命の保険料収入は、約4兆3500億円だった。そこに、プロテクティブ生命の保険料収入を単純に加算すると、約4兆6500億円となる。日本生命は約4兆8200億円であり、その差は縮まる。
【保険会社にのしかかる、日本の少子高齢化という問題】
このニュースの背景として、海外メディアが一様に注目しているのが、日本の少子高齢化という問題である。保険会社にとっては、新規顧客となる若年層が減る一方、顧客のうち、高齢者の占める割合が増えれば、(個人年金など)支払いは増大する、とフィナンシャル・タイムズ紙は示唆する。
日本の人口は、2010年ごろにピークを迎え、いまは減少期に入っている。ピーク時、約1億2800万人だった人口は、2035年までに14%減り、1億1000万人近くまで減少するという予測をロイターが紹介している。国内市場が縮小する中で、すでにシェアの高い大手生保会社が、成長を続けるためには、海外市場に手を伸ばす他はない、とのアナリストの見解を紹介している。
一般には、成長著しい東南アジアの生保市場への関心が高い。しかし、ブルームバーグによると、全世界の生保市場の約22%を占め、世界第1位のアメリカも、世界第2位の日本とは違って、まだ成長が見込めるという。
この傾向は、生保業界だけのものではない。2012年の年末以来、円が他の主要通貨に対して20%安くなっているにもかかわらず、日本企業による、海外企業の合併・買収活動に拍車がかかっている、とフィナンシャル・タイムズ紙は伝える。ロイターによると、今年これまでのところ、日本企業が海外での合併・買収に費やした金額は270億ドルに上るという。昨年の同期間は、104億ドルだったとのことだ。
【2000億円規模の新株発行を検討しているとの報道】
もう1点、海外メディアが残らず着目しているのが、5000億円という巨額の買収資金の調達方法である。日経の報道によると、第一生命は、公募増資により、2000億円規模の資金を調達することを検討しているという。この件に関しても、第一生命はプレスリリースで、「公募増資を含めた様々な資本調達手段の検討を行っていることは事実」と認めている。
2000億円分もの新規株が、株式市場に流れることになれば、現在保有している株の価値が下がるのではないか、という懸念が株主の間に存在する。報道のあった2日の株式市場では、売買注文が殺到した。前日終値に対して、一時9%近く値を下げたが、その後やや持ち直し、終値では5%安となった。
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