日立、世界最速エレベーター開発 地震対策で培われた日本の最高峰技術に、世界も注目
4月末、日立製作所が世界最速のエレベーターを開発中だと発表した。中国・広州市で建設が進んでいる超高層ビル「広州周大福金融中心(Guangzhou CTF Finance Centre)」に納品するもの。2016年に完成予定のビルは、地上530mの111階建てとなる予定だ。
2機取り付けられる予定の高速エレベーターは、1階から終点の95階まで、時速72km(分速1200m)で上り、43秒で到着するという。稼働すれば、台北101ビルのエレベーター(東芝エレベータ)の時速60.6km(分速1010m)を超え、世界最速となる。
中国を中心にアジアでは高層ビルラッシュが続いており、海外メディアは今後も伸びていくだろうエレベーター市場と合わせて、日本メーカーに注目している。
【成長するエレベーター市場とその技術】
市場調査大手Reportlinkerによると、2012年には860億ドル規模だった世界のエレベーター市場は、今後も毎年6%程度拡大していく見込みだという。2017年には110億ドルの市場規模になると予測される。中でも、中国を中心に、インドやブラジルなど勢いのある地域で需要が伸びていく予測だ。
エレベータービジネスにおいて、日本の大手メーカー4社(三菱電気、日立、東芝エレベータ、フジテック)は、世界シェアの25%を占める。着実に技術を磨き不動の地位を確立しつつある、とワシントン・ポスト紙は注目している。
世界最速クラスのエレベーターのうち、シカゴにあるジョン・ハンコック・センターが時速33km(5位)。4位と3位の中国国際貿易センターとドバイのブルジュ・ハリファが、時速35km。2004年に世界最速としてギネスに記録された、2位の台北101が時速60km程だ。約10年間で時速を10kmも伸ばすことになる、と英デイリー・メール紙はまとめている。
【日本技術のウリとは】
日立の最新エレベーターは、専門家らが「勝利の偉業(Trophy Job)」などとも呼ぶ。新型モーターの巻き上げる力を3割増にしつつ、かごをひくロープは強度を高めながらも3割程度軽量化。気圧の変化や揺れへの対処も施し、同社の技術を世界に誇るものとなっている(ワシントン・ポスト紙)。
同紙はまた、地震が多いという地理的要素も、日本の技術を飛躍させた要因だろうと分析している。地震が定期的に起こる日本では、全国的にエレベーターの安全性の向上が進められてきた。他国に比べて、材料も強度が高いという。
材料の他にも、大きな揺れを感知して動作を停止するセンサーなど、細かい緊急時対策が取られている。さらにフジテックでは、硬貨を縦に起き、作動中でも倒れないことを実証する試験を行っていると紹介されており、日本のエレベーターは動作の滑らかさも優れているといえる。
【今後の課題と海外からの意外な反応】
高速で上昇する技術が発展する一方、下降は今後の課題だと専門家らが指摘している(デイリー・メール紙)日立の最新モデルも、下降時は時速36km(分速600m)であり、上昇時の約半分のスピードだ。下りの方が気圧の変化が大きくなるため、より高度な気圧抑制システムが必要になる、と米ブログメディア『Mashable』も指摘している。技術的には十分に生産可能であるようだが、実際に商品化できるには生産コストを下げていくことが主な課題のようだ。
新興国で世界一高いビルや最速エレベーターの建設が競われている一方で、欧米からは多少冷めた意見が挙がっている。デイリー・メール紙の読者からは、「高速エレベーターの気圧の変化に膀胱が刺激されて尿漏れするらしい」や「怖いだけでなにが楽しいのか分からない」、「気分が悪くなった時のためにエチケット袋を設置するべき」などというコメントが多く寄せられており、体験してみたいという意見は多くなかった。