孫社長の中国アリババ投資、20億円が約6兆円に 「アジアのバフェット」と海外から評価も

 中国の電子商取引大手アリババ・グループ・ホールディングが6日、米証券取引委員会に新規株式公開(IPO)を申請した。IPOによる調達額は、2年前に上場したフェイスブックの160億ドルに匹敵するか、あるいは上回る可能性もあると見られている。

【ゲイツやジョブズとの違い】
 ニューヨーク・タイムズ紙は、アリババ会長のジャック・マー(馬雲)氏のユニークな経歴と起業の背景に注目している

 マイクロソフトのビル・ゲイツやアップルのスティーブ・ジョブズ、またフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ等IT業界の成功者達と、アリババのマー会長には決定的な違いがある。ゲイツ氏ら技術畑出身の面々と違い、マー会長はコンピューターの専門家ではなく、元・英語教師だったという。

 マー会長が初めてインターネットを使ってみた1995年、「ビール、中国」で検索してみたそうだ。検索結果は、ゼロ。このことに触発され、中国語への翻訳サービスサイトを友人の手を借りて作ってみた。ものの数時間の内に、世界中から情報を求めるメールが送られてきたという。これが数年後、アリババを立ち上げるきっかけとなったはじめの一歩だ。

 技術の専門家ではないマー会長の役割は、戦略家であり、モチベーターであり、ライバル社への手強い対抗勢力となることであったという。そしてなによりも「アリババユーザー数百万人達の声を代表する者」である、と会長を古くから知るダンカン・クラーク氏は言う。

 専門家でないことが功を奏している点については、マー会長自身「多くの産業において技術革新は、外部者が引き起こす混乱と崩壊から生まれる」と人民日報に寄稿している。ちなみにニューヨーク・タイムズ紙によると、中国共産党の公式紙である人民日報に、民間起業家が寄稿すること自体、非常に稀なことで、そういった点でもマー会長が別格であることが伺える。

【アリババ上場で注目を浴びる孫正義】
 ソフトバンクは2000年に、アリババに2000万ドル(約20億円)を出資した。14年を経た今、ソフトバンク保有株式の現在の価値は600億ドル(約6兆円)以上と見積もられている。このことでソフトバンク代表の孫正義氏に、世界の注目が集まっている。

 ブルームバーグによると、クロス・パシフィック・キャピタルのグレッグ・タール氏は「孫正義はアジアのウォーレン・バフェットだ。成功とは、初期投資に対するリターンの度合いで計られるのがベンチャー・キャピタルの世界だ。ツイッターや今回のアリババのように、500倍ものリターンを生むような機会が、ときに起こる」と評しているという。

 また香港のアナリスト、ニール・ジャギンス氏は、孫正義を「決して簡単には諦めない男」と表現している。そしてその粘り強い忍耐力が今回、アリババのIPOでもついに報われたとブルームバーグは述べている。「孫正義は種をまき、育つのを待つ。アリババはそのいい例」と、岩井コスモホールディングスのアナリスト川崎朝映氏は語っているという。

【見返りが大きい分軽視できないリスクも】
 フィナンシャル・タイムズ紙は、アリババをはじめとする中国企業が抱える問題に注目している。それが、VIE(変動持分事業体)と呼ばれる規制の抜け穴だ。

 中国政府は、インターネットや教育など特定の事業分野において、外国企業による参入を制限する規制を設けている。そこで、その規制をかいくぐる術として、このVIEを利用するのが常套手段となっているという。

 実際、Yahooは「アリババと提携していることになっているケイマン諸島に拠点を置く企業」に投資していた形になっている。ところが2011年に、傘下の電子決済システム会社アリペイを、中国当局から業務認可を得るためにVIEから外す必要が生じた。そのためアリババは、大株主のYahooやソフトバンクに事前承認を得ることなく、アリペイをジャック・マー会長の保有する別の会社に譲渡してしまった。3社はその後和解したものの、この件について当時は激しく対立した。

 「ひとつ間違うと、全てを失う可能性もある。それが中国企業への投資だ」と、ある弁護士は語っているという。しかしそれでも、リスクとリターンを計算すれば、見返りの方が大きいだろう、と同紙は述べている。アリババとソフトバンクの件だけでなく、他にも例えば、クレイグズリスト(アメリカの地域情報コミュニティサイト)の中国版『58.com』は、11月のデビュー以来ほぼ倍に成長している。たとえリスクは大きくとも、こんな魅力的な話に投資家は抗えないだろう、との見解を同紙は示している。

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Text by NewSphere 編集部