ハイブリッド車が欧州で絶好調 トヨタに再び黄金期は訪れるのか?

 トヨタが欧州市場を快走している。

 BBCによれば、フランクフルトで開催されたモーターショーでは、各社ともに「エコ」に力を入れるなか、ひときわ目立ったのが展示車を「ハイブリッド」一色に揃えたトヨタの展示だった。

 背景には、従来ディーゼル車が主流で、ハイブリッド車の売り上げが日米に比べて伸び悩んできた欧州市場で、変化が起き始めていることがあると、海外各紙は伝えている。

【ティッピング・ポイント到来? 欧州ハイブリッド車市場】
 ハイブリッド車を全面に押し出す戦略の立役者、トヨタモーター・ヨーロッパを率いる初の「非日本人」社長のディディエ・ルロワ氏は、フィナンシャル・タイムズ紙に、「ハイブリッド車は、欧州でティッピング・ポイント(そのポイントを超えると、なだれを打つように、その物や事が一気に全体に行き渡る「閾値」のこと)を迎えた」と自信に満ちたコメントを寄せた。

 同氏がモーターショー前夜の記者会見で語ったところによると、欧州で同社のハイブリッド車の売り上げは6%増を見込んでおり、全販売台数の4分の1を占める堅調ぶりを見せている。マーケットシェアも、2012年の65%から75%に伸びる見込みだという。
 
【難航した市場開拓】
 トヨタが満を持してプリウスを世に送ってから14年。「ハイブリッド車」の先駆けとして順調に売り上げを伸ばしてきた日米に比べ、欧州での売上はなかなか軌道に乗らなかった。従来、ディーゼル車が主流だったことに加え、技術の進歩によってディーゼル車や通常のガソリン車の燃費が向上したこと、そして「電気自動車」の利用価値に対する不信感が根強かったことが足かせとなったためだ。

 しかし、長引く原油の高騰やECによる厳しい二酸化炭素排出量の規制によって、消費者が「エコカーという未来」を考えざるを得なくなったのが好機となった。そして、トヨタが積み重ねてきた技術の進歩への信頼という土壌が醸成されていたことにより「ティッピング・ポイント」が到来した、というのが、ルロワ社長の分析だ。

【巨額の投資に勝機はあるか? トヨタの賭け】
 現在のプリウスで第三世代となる、トヨタの「ハイブリッド車」は、莫大な研究開発費から、売っても「利益にならない」との風評が根強い。ルロア氏はこれを「根も葉もない」と一蹴する。ハイブリッド車の売り上げによって、トヨタの利益は順調に伸びているというのだ。

 とはいえ、トヨタが投じた最新の研究開発費は70億ドルに上り、この開発費用が、2014年度の収支に重くのしかかることになる。内部にも、欧州に不況の影が今なお色濃く残ることをもって、6年続く販売低迷が反転するには、最低でも2015年まではかかるという慎重論もあったという。

 しかし、失業率が底を打ち、消費者マインドが好転しつつあるという独自の調査結果などにより、ルロワ氏の見通しは前向きだ。「2007年の、黄金期に戻るには時間がかかる。しかし、いずれ、トヨタは黄金期を取り戻す」と語る。

【続くトヨタの挑戦】
 ルロワ氏は、「いつか、電気自動車でなければ主要都市の走行を禁じられる時代が来る」と考えている。その時代を見据え、トヨタは現在、燃料電池ハイブリッド車の開発に着手している。

「次のゲームチェンジャー」と見なされているこの車を、トヨタでは2015年に市場に送り出す予定だという。電気自動車に必須のインフラ整備については、「普及についてくる」との考えだ。

〈逆境を忘れない〉
 2009年に、アメリカから始まった「トヨタ・バッシング」ともいわれるクレームの嵐は、野火のごとく広がり、「世界のトヨタ」に大ダメージを与えた。ヨーロッパ市場も例外ではなく、大規模なリコールが続いた。ルロア氏はこれについて、「風評被害も少なくない」と語りながら、トヨタは今後も、この経験を忘れず、さりとてリコールを恐れず「ゼロ・トレランス方式」を貫くと宣言している。それが、「消費者の信頼を得る唯一の方法」だと考えているからだ。

【欧州を席巻するエコカー・テクノロジー】
 王者トヨタを追うライバル、日産自動車は、電気自動車リーフに力を入れている。欧州での拠点は、イギリス北部のサンダーランドだ。イギリス政府もこれを歓迎。同国を成長産業である「エコカー・テクノロジー」の中心地にするべく、10億ポンドの投資計画を発表したという。

 欧州のエコカー業界から、目が離せない。

Text by NewSphere 編集部