南ヨーロッパ襲う猛烈な熱波 山火事多発、電力需給逼迫
南東ヨーロッパが、焼け付くような熱波に襲われている。この影響によりトルコで発生した大規模な山火事はさらに厳しさを増し、ギリシャでは電力供給の危機に陥っている。この非常事態に対応するため、政府は対策に乗り出している。ギリシャ内陸部と近隣国での気温は、45度にまで達した。
トルコでは山火事に見舞われた住民の救助が遅れ、数日間で9人が死亡した。海岸沿いの村、ボザランに住むエスラ・シャンル氏は、「止まることなく燃え続けています。飛行機もヘリコプターも来ませんし、ここへと通じる道もありません。どうすれば火は消えるのでしょうか。一体どうすれば……」と涙ながらに語る。トルコ政府は国際的な支援を広く求め、欧州連合からは消防飛行機を派遣する約束を取り付けた。
トルコ沿岸に浮かぶギリシャのロードス島では、火事が迫る地域に非常事態宣言が発令された。広範囲に及ぶ空調の使用により国内の電力不足が懸念される状況をうけ、廃止予定であった石炭火力発電所は再稼働を余儀なくされた。
ブリストル大学で気候科学を研究するダン・ミッチェル教授によると、南東ヨーロッパでの熱波は「まったく予測不能であったわけではなく、人間活動に起因する気候変動により深刻化した可能性がきわめて高い」という。
ミッチェル氏は、「記録的に暑い年の上位10位はいずれも2005年以降の年であり、世界中で発生している過酷な暑さによる災害は毎年増加の一途です。カナダ西部とアメリカを襲った猛烈な熱波をはじめ、2021年には多くの重大な災害が発生しました。いまの気候変動の状況を鑑みても、それ以上に過酷な1年でした。想像も及ばないような災害はこれまでも発生していましたが、気候がさらに暑くなっているなかで、災害の規模はますます過酷さを増しています」と語る。
暑さはさらに南方においても影響を及ぼし、イタリアとクロアチアは山火事に加え、暴風雨にも見舞われた。クロアチア北部のアドリア海沿岸に位置するイストラ地方では小さな竜巻が発生し、倒木によって数台の自動車が破壊された。その数時間後には、近くのリゾート地トロギル郊外で大規模な山火事が発生し、家屋や地域の電力供給を脅かした。
イタリアの沿岸都市ペスカーラでは、山火事が近くの松林にまで達し、煙を吸い込んだ軽度の患者30人程度が治療を受けた。海辺に滞在していた人々は、火の手から逃れるために海へ避難することを余儀なくされた。
カルロ・マッシ市長は、「松林のあるこの一帯は自然保護区です。いまでは完全に破壊されてしまいました。涙なくしてその様子を見ることはできません。環境への被害は計り知れません。ここは市の中心的存在であり、都会の中の緑地地域でしたが、いまは跡形もありません」と話す。
7月に発生した大規模な山火事から復興の途上にあるキプロスは、突発的な火災の発生に備えて消火飛行機による巡回を継続している。
森林管理局長ハラランボス・アレクサンドル氏は、「火災発生時の初期対応を迅速にかつ徹底的に行わなければ、あっという間に困難な状況へ転じてしまいます。戦時下のような状況です」と話す。
ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は停電のリスクを抑えるため、オーブンや洗濯機など消費電力の多い電化製品の日中の使用を控えるよう、国民に強く要請した。ミツォタキス首相はギリシャの気候について、「1987年に発生した猛烈な熱波以来、もっとも過酷な状況にある」と述べている。
同じ1987年に、ギリシャ北部の都市スキドラの副市長アイオーナ・ヴェルゴウ氏は生まれた。人口5500人の同市は、国内でもっとも気温の高い都市に位置付けられたことがある。同氏によると、市職員の勤務時間を前倒しにし、公共サービスの利用者には水を配布したり、空調の効いた部屋で待機するよう促したりしていたという。
ヴェルゴウ氏は、「ここに住む多くの人が、いま起きている熱波と1987年の出来事を比較しています。しかし、今回はそれほど深刻になることはないと信じています。私たちはみんな、収束を待つだけです」と語る。
By DEREK GATOPOULOS, MEHMET GUZEL and COLLEEN BARRY Associated Press
Translated by Mana Ishizuki