メキシコ麻薬組織のボス逮捕 海外紙は抗争激化を懸念
16日早朝、メキシコ海兵隊は、麻薬組織「セタス」の首領、ミゲル・アンヘル・トレビーニョ容疑者(通称「Z-40」)らを無血逮捕した。現金200万ドルや自動小銃8丁も押収した。同容疑者は米国境沿いの町ヌエボラレド付近で、ピックアップトラックで移動中だった。
米国はこれに祝意を表明した。ただ、両国当局は米国側の関与についてノーコメントである。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、逮捕時に使用されたヘリは米国の提供であり、メキシコ海兵隊も米国で訓練されたと報じている。
【残虐性が売りの新興ギャング】
皮肉なことに、セタスは元メキシコ軍の麻薬対策特殊部隊員らが設立した組織であり、初期は他組織の暗殺部隊などとして働いていたという。
近年独立し、麻薬や不法移民の密輸、恐喝、誘拐から殺人まで、手広く犯罪を手掛けていた。セタスは斬首・バラバラ解体・釜茹でなどの残虐な手口で知られ、そのスタイルは脅しの手段として他組織にも模倣されているという。
トレビーニョ容疑者は、2012年10月にエリベルト・ラスカーノ前首領がメキシコ軍との銃撃戦で死亡した後、跡を継いだものと見られている。
当局によると、トレビーニョ容疑者は2010年と2011年、中米・メキシコからの移民265人の処刑を命じたなどとされている。
またトレビーニョ容疑者の弟で指名手配中のアレハンドロ・トレビーニョ容疑者(通称「Z-42」)は、米国で短距離競走馬の売買によるマネーロンダリングに従事しており、目下彼がトレビーニョ容疑者の跡を継ぐ可能性が高いという。
【ボスはなくとも抗争は続く】
各紙は、この逮捕が、昨年12月に就任したペーニャ・ニエト大統領にとって追い風になると報じた。
ペーニャ・ニエト大統領は従来、「逮捕か殺害か」を謳ったカルデロン前大統領ほど断固とした対麻薬組織姿勢を打ち出していないとして、米当局などからも不安視されていた。ニューヨーク・タイムズ紙は、ペーニャ・ニエト大統領はカルデロン前大統領の路線に限界を感じていたと説明している。
しかし専門家らは、トレビーニョ容疑者が逮捕されたからと言って、麻薬戦争が沈静化するわけではないと危惧している。
まず元々、セタスの名前を借りて下部組織が犯罪を実行するというフランチャイズ的組織であるためだ。
また、ボス逮捕によって組織内の権力闘争が発生したり、セタス弱体化を好機として他組織がセタス勢力圏に殴り込みに来る可能性もある。ただ、政府に対する直接的脅威としての戦力は減るとも言われている。
なお政府によると、メキシコでの2013年上半期の薬物がらみの殺人は、昨年下半期から約18%減少したものの、なお6,300件に達するという。